2.9 英文ビジネスレターの構成要素とプロトコール
前項ではビジネスレターの形式について、それぞれ実例を挙げて解説した。すでに明らかなとおり、ビジネスレターはその形式のいかんにかかわらず、いずれもほぼ共通した要素から成り立っている。
通常のビジネスレターを構成する要素は、およそ次の15項目に絞ることができる。このなかには、日付や文書番号のように、どの場合にもほぼ一定の書式をとるものから、書中宛名や冒頭敬辞のように相手に応じてその書式が変わるもの、さらに同封物注記のように必要に応じて加えられるオプショナルな要素が含まれる。
1. 書簡紙頭書 (letterhead)
2. 文書参照番号(reference line)
3. 日付(date line)
4. 郵送注記/取り扱い注記(mailing notation or on-arrival
notation)*
5. 書中宛名(inside address)
6. 特定宛名(attention line)*
7. 冒頭敬辞(opening salutation)
8. 文書主題(subject line)*
9. レター本文(letter body)
10. 結尾敬辞(complimentary close)
11. 署名欄(signature block)
12. 通信責任者識別記号(identification initials)*
13. 同封物注記(enclosure notation)*
14. 写し送付注記(carbon copy notation)*
15. 追伸 (postscript) *
* 印のついたものはオプショナルな要素を示す。1から15までの番号は
Figure 43 の左マージンにある番号に対応。
これらの構成要素にはいずれもそれぞれその存在理由があり、その用法についても一定のルールがある。この項では、ビジネスレターを構成する上記15要素について、まずその原則的なルールを説明し、さらにファクスでレターを送信する場合の注意事項なども含め、毎日のドキュメンテーション業務の中で発生する具体的なケースから応用例を拾って解説を加える。
2.9.1 書簡紙頭書(letterhead)
すでに述べたとおり、レターヘッドとは会社のシンボルマーク、社名ロゴ、会社のアドレス
、電話およびファクス番号、あるいは最近ではこれに電子メールアドレスなどを加えた一連の情報が印刷されたレター用紙上部の頭書きのことを指す。一般には、そのようなデータが印刷された社用箋そのものをレターヘッドと呼んでいる。
Figure 43: 英文ビジネスレターの構成要素 (セミブロックレターの例)
なお、最近ではインターネット上に自社の「ホームページ」を開設している企業も増えており、そのロケーションをレターヘッドにも記入しておくことがある。Figure
43の例に見られるURL = http://www.jpt.co/homepage という一連の記号は Japan
Trading 社のホームページアドレスを示す。
最近のレターヘッドデザインの特徴、および各種レターヘッドの実例についてはすでに見たとおりであるが、どのようなデザインを採用するにせよ、外国に出す正式なビジネス文書にはきちんとしたレターヘッドを使用することが原則である。日本国内では文書の公式性と権威は印章のあるなしによって表してきた。したがって、用紙自体のデザインはあまり問題にはならず、ビジネス文書にも普通の白紙、あるいは社名だけ隅に小さく印刷した簡易用箋を使っているケースが少なくない。しかし、欧米では一般にレターヘッドそのものが文書の権威と公式性を表し、正式なレターヘッドを使用していない文書はあくまでも私信、ないしそれに準じたものとみなされる。
a) 公用と私用の区別
企業・団体を代表して出状するフォーマルな通信以外のすべての書簡は、いわゆる私信ということになる。たとえば、業務上必要な書籍などを発注すると仮定しよう。この場合、会社(あるいは上司)がその購入を正式に承認していなければ、これはあくまでも個人的な行為ということになる。したがって、このようなケースではたとえそれが業務に関連したものであっても、原則として会社のレターヘッドを使って発注することはできない。
しかし、現実にはビジネスレターヘッドを単なるメモ用紙程度に考え、これを個人的に乱用・誤用しているケースが少なくない。ひどい例では、転職を希望している人が、ある会社への就職申込状を現在勤務中の会社のレターヘッドを使って出していたなどという信じられないような話もある。
一般に、日本の企業ではビジネスレターヘッドの取り扱いについてきちんとしたルールが確立されていないように思われる。すでに述べたT社の詐欺事件(p.48参照)などはこうした慣習の当然の結果であるというべきだろう。ビジネスレターヘッドは、その性格上いわば金額および払込先未記入の手形のようなものであり、いったん出状されたものについては、その内容および結果について会社が全責任を負うことになるのである。
b) 私信のレターヘディングの書き方
前述のように、企業・団体を代表しない通信はすべて私信であって、このような通信には市販の便箋を使う。私信のレターヘディングの書き方(米国標準方式)は次ページの例のとおりである。この例では、発信人の住所を1ページ目の右肩に記入しているが、これをリターンアドレスと呼ぶ。なお、発信人の氏名はここには記入せず、レター末尾のサイン欄に記入するのが一般的である。ただし、発信人氏名をリターンアドレスの1行目にタイプし、レター末尾にはサインのみを手書きで加えることもある(ヨーロッパではこの方式が多い)。
書中宛名は日付行から1行ないし2行分のスペースをあけて、左マージンにそろえて記入する。ただし、ごく親しい相手に出す私信では書中宛名を省略することが多い。2ページ目以下のヘディングには、受取人の氏名、日付、ページ番号などを書き加える。これはビジネスレターの場合と全く同じである(pp.
154-155 参照)。
もちろん、いわゆる「私信」の場合、本来その文面をどう書こうが他人がとやかく言う筋合いのものではない。要するに好きなように書けばよい。ただし、基本はひととおり知っておくべきだろう。なお、サイン欄に役職名や部署名などを書き加えるのは純然たるビジネス通信の場合のみであって、それ以外のケースではこれは不要である。
Figure 44: 私信のレターヘディングの書き方と位置(米国標準方式)
この例はタイプライターを使ってレターを作成する場合の標準的なスタイルであるが、最近はパソコンやワープロを使って私信のレターヘッドを自由に、かつ簡単にデザインすることができるようになった。Figure
45は通常の白紙を使ってごく簡単なデザインを施した私信用レターヘッドの例である。レターヘッドに盛り込むべき要素は基本的にはビジネスレターの場合と同じで、発信人の氏名、住所、電話番号を中心に、必要に応じてファクス番号や電子メールアドレスなどを記入する。
[16] 私信の場合、ごく親しい相手に出すときはの場合はアドレスを省略することがある。
Figure 45: 簡単なデザインを施した私信用のレターヘッドの例
2.9.2 文書参照番号(reference line)
ビジネスでは、文書の管理のために原則としてすべての書類にそれぞれ固有の文書番号を加える。日本語の「文書番号」に対応する英語呼称は、letter
number, document number, file number, reference number など企業によって異なるが、これを記入する行を一般に
reference lineと呼ぶ。
インデントフォームおよびセミブロックフォームで書かれたビジネスレターでは、文書番号は通常レターヘッドのすぐ下に「右寄せ左そろえ」ないし「右寄せ右そろえ」で記入する。この場合、レターごとにその記入位置がまちまちにならないように、書き始めの位置をあらかじめマニュアルなどで指定しておくとよい。たとえば「文書番号はレターヘッドの最終行から2行分のスペースをあけ、語頭を用紙右端から80
mmの位置から書き始める」といった具合に具体的に指定し、併せて次のようにその表記例を示しておくのである。
Figure 46: 文書番号の記入例(右寄せ左そろえ)
フルブロックフォームでは左マージナルラインに行頭をそろえる「左寄せ左そろえ」となる。なお、文書番号の前に
Letter No. とか Ref. No. などと記入することもあるが、これは不要である。こうしたヘディングを加えなくとも、レターのこの位置にLQ-998などの番号が明記されていれば、これがそのレターの
reference number であることは明らかである。これは日付についても同じである。日本語文書でも「日付:8月26日」などとはしないように、わざわざDate:
August 26, 19-- などとする必要はない。
ただし、次ぺージに示す例のように、文書番号や日付の記入位置が指定されているレターフォームもある。この場合には
Our Ref.とか Your Ref. などのような、あらかじめ印刷されたヘディングに従って必要なデータを記入する。次例中の
Our Ref. はこちら側の文書 [参照]番号、Your Ref. は相手側の文書 [参照] 番号をそれぞれ指す。
Figure 47: 文書番号その他の記入位置があらかじめ指定されたレターフォーム例
こうしたヘディングをあらかじめ印刷しておくことは、データの記入洩れを防ぐにはよい方法である。ただし、このようなレターフォームではタイプするときにいちいち所定の位置までタブを空送りする必要がある。しかも行をきちんとそろえるための手間もかかり、当然、タイピングの効率は悪くなる。ワープロやパソコンを使って印刷する場合も、それぞれのデータの印刷位置を正確に指定するなどの手間がかかる。なお、上例のようなレターヘッドとする場合は、2ページ目以下の用紙にも同じようなヘディングを加えておくのが一般的である(Figure
117, p.154 参照)。
a) 文書作成を効率化する特殊な reference
line の例
以下に示す例は、カナダ・オンタリオ州保健省の健康保険課が被保険者との通信用に使用しているレターヘッドである。
Figure 48: 文書作成を効率化するレターヘッド・ガイドワードの例
(図省略)
この例では、カギカッコで指定された窓付き封筒用宛名表記欄の下に3つのガイドワードが印刷されている。OHIP
NUMBER とあるのは相手方の被保険者番号で、ビジネスでいえばこれは顧客番号に当たるものである。
このレターヘッドで特に注目されるのは左端にある “WE ARE
PLEASED TO REPLY TO YOUR INQUIRY OF” (…[日付]のお問い合わせについて[以下のように]お返事いたします)の部分である。通常、この欄には問い合わせを受けた日付が入り、必要に応じてその内容を簡単に付け加えることになる。一般的には、この
We are pleased to reply to your inquiry of . . . 以下のセンテンスを本文の書き出しとするが、このようにフォーム化しておけば、本文ではただちに本題に入ることができる。
なお、このレターヘッドでは、レター用紙下部に If reply necessary
please use the reverse side of this letter(返事が必要な場合はこのレターの裏面をご使用ください)という注意書きがある。このように、こちらから出す文書に対する返信、あるいはその内容に関する問い合わせに際して、当該文書(あるいはそのコピー)の裏面を使用すれば、いちいち該当する文書をファイルから探し出す必要がなくなり、事務の効率化をはかることができる。
b) ブラインドリファレンスについて
礼状、招待状、お悔やみ状などといった、いわゆるビジネス社交文書
(business social letters) では、通常、文書番号などのリファレンス類は記入しない。これは、文書の性質上、ビジネスライクな印象を与えないための措置である。しかし、社内の文書管理上、これがどうしても必要な場合もある。このようなときに、相手に出すオリジナルには文書番号を記入せず、ファイル用の控えコピーにのみ文書番号を書き加えておくことがある。これをブラインドリファレンス
(blind reference number) と呼ぶ。
この場合、控えのコピーに記載してある文書番号が「ブラインドリファレンス」であることを明確にしておくために、番号の前に
B.Ref. やBRF: (=Blind Reference) または BRN: (=Blind Reference Number)
などのような略語を加えておく (Figure 49 参照)。
Figure 49: 控えコピーに blind reference number を加えたレター例
なお、ブラインドリファレンスがあることを示すために、相手に送付するオリジナルレターの冒頭、ないし末尾に
BRF などと記入しているケースがあるが、これではわざわざブラインドリファレンスにする意味がない。
c) ナンバリングシステムについて
文書番号のとりかた(ナンバリングシステム)は、各社がそれぞれ独自の方法を考案し、実行しているが、最も一般的なのは「部門別記号+書類分類記号+連番」の3つのユニット、または「部門別記号+連番」ないし「書類分類記号+連番」のふたつのユニットから文書番号を構成する方法である。部門別記号とは、たとえば「経理部
(accounting)」「販売 (sales)」「人事 (personnel)」をそれぞれ AC、SL、PL
などの略号で表したもので、書類分類記号とは、たとえば「請求書 (invoice)」「見積書
(quotation)」 、あるいは「議事録 (minutes of meeting)」などの書類区分をそれぞれIV、QT、MMなどの略号で表したものである。連番は、通例その年の最初に発行する文書を1番
(001や 0001 のようにあらかじめ桁数を確定しておくことが多い) とし、1年単位で更新する。このほか、主題・項目別に分類したり、プロジェクト毎に連番をとる方法も使われている。いずれにせよ、ナンバリングシステムの確立はドキュメンテーションコントロールの第一歩であり、しっかりしたシステムを確立しておく必要がある。また、いったん確立されたものは長期にわたって遵守すべきものであり、システム確立と同時にマニュアルも作成し、全社的徹底をはかる必要がある。
2.9.3 発信日付(date line)
発信日付はビジネス文書にとって必要不可欠な要素のひとつである。文書番号は主として発信者側の文書管理上必要な要素であり、受信側にとってはこれがなくても特に支障をきたすことはない。しかし、文書の発信日付は受信者側にとっても必要なデータであり、これが明記されていない文書は発信者・受信者双方にいろいろな不都合を与える。
たとえば、ある問い合わせ文書に対する返信を書くとする。この場合、返信の冒頭で
Thank you for your letter of November 23 . . . あるいは In reply to your
inquiry of November 23, we are pleased to . . . のように日付をリファーしながら、相手方文書の特定および主題設定を行うのが、通常の書き出しスタイルである(詳しく第3章参照)。発信日付が明記されていないレターでは、このような
identification ができず、場合によっては相手方文書の特定のためにその内容を要約して記述するなどの手間が必要となる。また、ビジネスでは複数の文書に言及しながら論を進めていくことが少なくない。その場合に
In reference to your letters of November 23 and 30, and ours of December
5 and 20, we are . . . のような表記ができないとなるとたいへん不都合である。
さらに、発信日付の明記は、ある企業や団体に送付した重要書類が、なんらかの事情で遅配された場合の一種の保険としても有効である。特に締切日あるいは送付日が指定された書類では発信日付はかならず明記しておく必要がある
。[17]
[17] ただし、ダイレクトメールなどのように、ある期間にわたって同じ文面の文書を不特定多数宛てに大量に発送する場合には、いちいち発信日付を記入しないことが多い。たとえば
Figure 71(pp. 108)の例1と例2参照。
a) 日付の書き方
日付の書き方には英国式、米国式、米国国防総省方式などがあり、以下に示すようにそれぞれ多少、書き方が違っている。
10th August, 19-- 英国標準方式
August 10, 19-- 米国標準方式
10 August 19-- 米国国防総省推奨方式
英国では日付を day, month, year の順に並べる。この並べ方は
“specific to general” という西欧の一般的思考法に沿ったもので、西欧人にとって最も自然な表現方法である。したがって、仮にこれに時間を書き加えるならば
4 p.m., 10th August, 19-- のように、day より小さい単位である time が先にくることになる。日本では、ちょうどこの反対に「年・月・日・時」の順に配列するが、これは住所表記法の違い(pp.
50-51参照)とともに、彼我の思考パターンの相違を最も端的に表す例である。
一方、米国では month, date, year の順に並べるのが最も一般的な日付表記法である。これは、month
と day をひとつのユニットととらえているのである。つまり、4:30 p.m. といった場合の
4 と 30 が不可分の要素であり、これを 30:4 p.m. などとはしないように、August
10 もまたこの形でひとつのユニットを構成するものと考えるのである 。[18]
[18] なお、英国式でも day と month の間にはカンマを入れない。これは、このふたつの要素をひとつのまとまりとしてとらえているからである。時間表記は米国式の4:30
(a.m./p.m.) に対し、英国式では4.30 (a.m./p.m.) のようにフルストップを使う。
米国式の日付表記法では、April 11, 1996 のように数字が続くために、場合によっては誤読の可能性がある。そのため、最近では
inverted date と呼ばれる方式を採用する企業が増えている。これは米国防総省などでも採用されている方式で、日付を
day, month, year (英国式に同じ。ただし、-st, -nd, -rd, -th などの序数語尾は加えない)の順に書き、monthとyear
の間にはカンマを加えないのを特徴とする。
米国防総省方式では date line の位置はレターヘッド最終行からおよそ3行あけ、語頭は左マージナルラインにそろえる。これは前節で述べた
full block form および simplified form の書式に準じたものである。通常のビジネスレターでは
Aug. のような省略形は使わず、Augustときちんとスペルアウトするが、米国防総省では10
Aug 96 のような略式表記も認めている。この場合、年号は末尾2桁を残し、月はそれぞれ次のように最初の3文字を使う。省略を示すピリオドは加えない
。[19]
[19] 一般的な略語法では末尾にピリオドを加える(ただし
May はそのまま)。
英国でも最近は month の後のカンマを省いたり、1st, 2nd, 3rd,
10th などの序数をそれ ぞれ 1, 2, 3, 10 と表記する例が多くなっている 。ヨーロッパ諸国では
Paris, le 23 mars 1996 のように、日付の前に発信地名を加えることがある。[20]
いずれにせよ、同一発信人の文書はいずれかの方式で統一すべきであり、たとえばレター冒頭の日付行
(date line)では英国式を採用し、文中では米国式で記述するなどの表記上の不統一は好ましくない。
なお、英語では月名は January, February, March のように、それぞれの名称で示すのが普通であり、月を数字で表すのはあくまでも略式である。したがって、通常のビジネス文書では
8-10-1996 とか 8/10/96(このほか 96 08 10 のような表記法もある。Figure
71, p.109 参照)などのような略式表記法は好ましくないとされている。現実的な問題としても、これでは8月10日(米国標準)のことか、それとも10月8日(英国標準)なのか、たいへんまぎらわしくなってしまう。「誤解の可能性のある表記、表現は避ける」というビジネスライティングの原則からしても、数字による日付表記は適切ではない。
[20] -st, -nd, -rd, -th などの序数詞を加える場合でも、the
10th of August や August the 10th とは書かず、それぞれ10th August およびAugust
10th のように表記する。ただし、これを読むときはthe 10th of August および
August the 10th と読むのが普通。
b) 日付と文書番号の記入位置
日付および文書番号の記入位置およびその位置関係については諸説あるが、国内では内閣通達による『公用文の作成基準』(昭和24年)にしたがって、文書の右肩に「文書番号→日付」の順に記入するのが一般的である。ただし、これは日本語文書の場合であって、英文文書では特にどちらを先に記入するかは決まっていない。ちなみに、米国防総省の規定では「日付→文書番号」の順に書き、語頭を左マージンにそろえて記入することになっているが、これはあくまでも米国防総省の部内規定であり、これが一般的というわけではない。
いずれにせよ、インデントフォームやセミブロックフォームの場合(Figure
50)にはレターヘッドの最終行から適当な間隔をあけてレター中央部より右側に一括して記入し、その書き出し位置については「文書参照番号」の項(p.75)で述べたように、あらかじめ指定しておくのがよい。なお、「右寄せ左そろえ」のスタイルでは日付と文書番号の書き出し位置を結尾敬辞および署名欄の書き出しにそろえ、「右寄せ右そろえ」のスタイルでは右端を右マージナルラインにそろえるように配置するケースが多い。これに対し、フルブロックフォームのレターでは日付、文書番号とも左マージナルラインにそろえて記入する(Figure
51)。
Figure 50: 文書番号と日付の記入例1 (インデントフォーム/セミブロックフォーム)
Figure 51: 文書番号と日付の記入例2(フルブロックフォーム)
2.9.4 郵送注記/取り扱い注記(mailing
notation or on-arrival notation)
文書の性質によっては、封筒および手紙の適当な位置に CONFIDENTIAL,
PERSONAL, REGISTERED MAIL, EXPRESS MAIL などと表記することがある。このうち、郵送に関する注記をmailing
notationと呼び、相手方に到着した後の取り扱いについての注記を on-arrival
notation と呼んで区別する。
前出のFigure 43 (p.72) にあるサンプルレターでは、AIR EXPRESSという注記が加えられている。これは、このレターが航空便で送付されたことを示す「郵送注記」である。以下に示す例では
CONFIDENTIAL という注記が付け加えられている。これは、この文書が「極秘」扱いであることを示す「取り扱い注記」である。通常、このような
注記はできるだけ目立つように文書の冒頭に記入し、左マージナルラインに語頭をそろえて大文字でタイプする。ただし、Figure
43 の例のように、文書番号と日付が右寄せとなっている場合、一般に郵送/取り扱い注記は書中宛名の上にダブルスペースあけ、左寄せで記入する。フルブロックフォームのレターでは次の
Figure 52 のようにする。
Figure 52: 取り扱い注記 (on-arrival notation) の例
通常よく使われる郵送注記および取り扱い注記には次のようなものがある
(Figure 53) 。なお、こうした注記はその内容によって、レター本体だけに記入するもの、封筒上だけに記入するもの、およびこの両方に記入すべきものがあるので注意されたい
。[21]
[21] 封筒上での表記については Figure 27 およびFigure
28 (pp. 52-53) 参照。
Figure 53: 郵送注記 (mailing notation) と取り扱い注記 (on-arrival
notation) の例
なお、このうちFACSIMILE (TRANSMISSION) およびVIA FAXは文書をファクスで送付する場合の郵送注記(郵便ではないので正確には「郵送注記」とはいえないが、ここでは仮に郵送注記と呼んでおく)であるが、たとえばFigure
43 (p.72) に示したような通常の航空便で送付することを想定した作成されたレターでも、郵送注記の記入位置にFACSIMILE
(TRANSMISSION) またはVIA FAX と記入しておけば、これをそのままファクスで送信することができる(via
は by way of; by means ofの意味のラテン語)。
2.9.5 書中宛名(inside address)
英文ビジネスレターでは、封筒上に表記される名宛人の氏名(社名)および住所(所在地)を必ずレター上にも記入する。これを書中宛名と呼ぶ。
通常、書中宛名は、文書番号/日付の最終行から(郵送注記がある場合はそこから)数行のスペースをおいて、左マージンにそろえて書く。その書き方と位置は使用するレターフォームによって多少のバリエーションがある。
ビジネスレターの書中宛名について、これを個人宛、役職宛、あるいは企業・団体宛のいずれとするかがよく問題になる。これには諸説があるが、今のところ「ビジネスレターはできるだけ特定の個人宛とする」というのが、おおかたのコンセンサスになっている。特に、返信を出す場合には元のレターの発信者(サイン欄に明記してある個人名)に宛てて書くのが礼儀である。この場合、次の例1)のように、個人名、役職名、所属部署、企業・団体名、企業・団体所在地の順に記入する
。[22]
[22] ただし、行数調整のために、個人名と役職名、あるいは役職名と所属部署をそれぞれ同じ行に書くこともある。
Figure 54: 書中宛名の書き方
役職宛にするのは相手の個人名がわからない場合の次善の策である。初めて出すレターなどで相手側の担当者名がわからない場合は、その用件を管轄する部署の長に宛てて書くことになる
。[23]
[23] 担当部署の責任者宛に出す代わりに、Sales Department
とか Administration Office などのように、部・課宛にすることもできる。この場合、米国では宛名の1行目に会社名、2行目に部・課名という順で記入することが多い。英国では、部・課名→会社名の順に記載する。
これに対する返信には、通常、その部署の責任者の個人名が明記してあるので、それ以降の通信からはその個人宛に書くことになる。なお、個人宛のレターでは名前の前に
Mr. などの敬称を加えるが、役職名(ビジネスタイトル)には敬称を付けない。
企業・団体宛にするのは、レターの用件が一般的で、特にその件についての担当部署、あるいは担当者が特定できない場合、または相手先の担当部署や責任者がわからない場合である。なお、ビジネスレターはすべて会社あるいは法人間の業務通信であるという観点から、宛先は企業・団体名で統一し、必要に応じて後述の「特定宛名」を加えるという方式を採用している企業もある。この場合、特定宛名はそのレターが相手方に届いた後、どの部署、あるは誰(個人)に送達されるべきであるかを示す一種の取り扱い注記
(on-arrival notatiuon) としての機能を果たす。
a) 書中宛名各ユニットの行分け
個人名、役職名、所属部署名、企業・団体名、企業・団体所在地名からなる書中宛名の表記方法は、次のようにそれぞれユニットごとに行分けして書くのが最も一般的である。この場合、通例、各行の行末にはカンマやフルストップ(ピリオド)を加えない。ただし、Ltd.
や Inc. などの略語の後のフルストップは省略しない 。[24]
[24] 各行の行末にすべて句読点を加える方式をclosed punctuationと呼ぶ。これは、フルインデントフォームのようなごく古いスタイルのレターで採用されることがある
(p. 61 参照)。
個人名と役職名、あるいは役職名と所属部署だけを1行にまとめて、次例のように表記することもある。なお、このように違うカテゴリーに属するものを同一行に書く場合は、その間にかならずカンマを入れて区切る。
いずれの書き方をとるにせよ、ひとつの方式で統一されていれば問題はない。ただし、原則として、2語以上からなるひとつのユニットを2行に分けて書くことはできない。このような分割表記が許されるのは本文中の行末のみである。
以下に示すFigure 55 の例1) では Sales DepartmentとAmerican
Business Consultants, Inc. という、それぞれまとまったひとつのユニットを不用意に分けてしまっている。ここでは分割表記の意味がまったくない。例2)
では、2行目の企業・団体名に続いてEnglewoodという地名が記入されている。しかし、企業・団体名とその所在地のようにそれぞれ異なったユニットはかならず行を分けて書くべきである。例3)
は行分けの意味をまったく無視している。このような書き方は、単なる不注意というよりはそもそもビジネスレターの基本的なルールに対する無知を示すものにほかならない。それぞれ右のコラムに示すような書き方をとるべきである。
Figure 55: 宛名の不適切な表記例
[25] 前述のとおり、米国では部・課宛の場合、宛名の1行目に会社名、2行目に部・課名という順で記入することが多い。これにしたがえば、ここではPrentice-Hall,
Inc. を1行目に、Publications Department を2行目に記入することになる。
b) 主要国の正式国名および略号
宛名表記で意外と間違いの多いのが国名表記である。外国にはいわゆる通称と正式国名がまったく違う国も少なくない。たとえば、英国は
England ではなく、正式には The United Kingdom of Great Britain and Northern
Ireland と呼ぶ。England とはグレートブリトン島の南部地域 (the southern
half of the island of Great Britain) の呼称にすぎない。ギリシャにいたっては通称と正式名がまったく異なっている。
一般的な郵便物はいわゆる通称でもきちんと届くようになっているが、正式なビジネス文書ではできるだけ正式国名を使用したい。特に、外国政府関係機関に提出する書類などで国名表記を間違えたのではさまにならない。参考までに主要国の正式名称とISO(国際標準化機構)規格による略号を以下に示す。なお、国名の略号のうち2文字で表されるものは、現在、インターネットの電子メールアドレスなどに使用されているものである。たとえばtyamada@jpt.co.jp
というアドレスでは末尾の jp が日本を示す略号になる(電子メールアドレスの詳細については第4章参照)。
Figure 56: 主要国の正式国名および略号一覧表
c) 書中宛名が極端に長い場合の行分け
書中宛名がレターの中央あたりをはるかに超えて長くなってしまうことがある。このような場合には、レター用紙左右中央線、ないし右端から全体の
1/3 あたりの位置で改行するようにする。これは一応の目安で、全体のレイアウトやフォーマット、あるいは書き手のデザインセンスにも大きく左右される。しかし、ほとんどの場合は常識的に判断して適当と思われる位置で改行してかまわない。ただし、改行はできるだけ意味・内容の区切れで行うようにする。たとえば、宛名が
The Japan Chapter of the International Society for the Promotion of Science,
Technology and Education のように極端に長いケースでは、これを1行に収めることはできないので、次のように分かち書きする。
Figure 57: 書中宛名が極端に長い場合の行分け
分かち書きの問題は宛名だけでなく、後述の「特定宛名 (attention
line)」、「主題行 (subject line)」、あるいは「署名欄 (signature block)」などでも発生するが、要はわかりやすく誤解の余地のない書き方をとるのが一番よいということになる。
d) Messrs. の使い方
企業・団体宛のビジネスレターの場合、Messrs.という敬称の使い方がよく問題になる。これはフランス語
Monsieur
の複数形 Messieurs の省略形で、Mr. の複数形であるから、この語は社名が人名、しかも男性名からできている場合、または人名を含む場合にのみ使用可能ということになる。したがって、社名が
Japan Trading Co., Ltd. とか I.B.M. などの場合にはMessrs. を使うことはできない。またMessrs.
はすでに略語であり、これを更にM/Sのように2重に省略するのも好ましくない。
企業宛の場合には Japan Trading Co. Ltd. のように企業名だけで十分であり、これで失礼にあたるということはない。
アメリカ、カナダなどでは法律事務所や会計事務所宛の場合などに
Messrs. を用いることがある。これは、こうした業種が基本的に個人営業であり、その名称に個人の姓を使っていることが多いからである
(e.g. Peterson, Yong and Associates, Inc.)。それ以外には、この敬称はほとんど用いられていない。また、企業名が(特に外国の企業の場合)人名からできているのかそうでないのか明らかでない場合も多く、不必要な混乱を避ける意味からも、Messrs.
のような敬称は使わない方がよい。ただし、企業・団体宛でなく、その中の特定の複数の個人に宛てたレターでは
Messrs. John Doe and Richard Roe のような形で Messrs. を使うことがあり、このような用法については特に問題はない。
e) 個人名に加える敬称 (Mr., Mrs.,
Ms., etc.) とその使い方
特定の個人に宛てる場合の敬称としては、相手が男性であれば
Mr. を使い、女性であれば Miss(Miss は略語ではないのでピリオドは加えない)、ないし
Mrs.を使う。Mr. は misterの短縮形であるが、敬称として使う場合は常に短縮形を使う。Miss
および Mrs.も特殊な場合を除いては短縮形のまま、前者を未婚女性、後者を既婚女性に対する一般敬称として使う。
相手が女性の場合で、既婚・未婚の別がわからぬときは一般に
Missを使ってきたが、最近では、女性に対する一般敬称として Ms. [miz] を使う例も増えている。この敬称は
Mr. に対応するものとして、1973年以降、国連でも公式採用されており、特に米国企業では女性に対してMs.
を使うケースが多くなっている(なお、Ms.は省略語ではないが、常に Ms.という形で使う)。
少し古い参考書を見ると、Mrs.の正式な使い方としてMrs. Jack
Smithのように夫の姓名の前に用いるのをフォーマルとし、Mrs. Betty Smith のように妻の名に冠するのは彼女が未亡人であることを示すとしているケースが多い。これは、妻は夫によって代表されるとする前世紀の考え方の名残で、現在ではこのような表記法をとる人は少なくなってきている。既婚女性宛の商用・公用文書、あるいは法律書類などでは、妻の名にMrs.
を冠して Mrs. Betty Smith のように表記するのが普通である。また、たとえば
Mrs. Betty Smith が発信あるいは受信するビジネス文書は彼女の責任において処理されるもので、その夫にはなんの関係もない。したがって、あくまでも彼女自身のフルネームを使うのが理にかなっている。ただし、相手のほうから
Mrs. Jack Smith と名乗って(書いて)きた場合には、返信でもそのとおりに表記しておくべきである
。[26]
[26] なお、ごくフォーマルな招待状などで夫婦の名前を連名表記する場合には、たとえば
Mr. and Mrs. Taro Yamada request the pleasure of the company of Mr. and
Mrs. John Doe at dinner on Friday, the twenty-eighth of October, at seven
o’clock. のように、いまでも Mr. and Mrs. Taro Yamada のように夫の姓名で代表する習慣が残っている。
f) Esq. (Esquire) の使い方
英国ではしばしば Mr. の代わりに次のような書式でEsq.(Esquire
の略)を宛先表記に使うことがある
Webster’s New World Dictionary では Esquire を “a
member of the gentry ranking just below a knight”(ナイトのすぐ下にランクされる紳士
[準貴族] 階級のメンバー)と説明している。現在では Mr. とほとんど同じ意味の一般敬称として使われているが、英国人インフォマットによれば、Esq.
は Mr. よりやや格調が高いものという印象があるという。そのために、この敬称は、たとえば目上の人に宛てた私信や、贈り物に添えるカード、招待状などによく使われる。ただし、英国から発送されたものも含めて、ビジネスレターではこの敬称はあまり見かけない。米国ではおもに弁護士に対する敬称として用いる(この場合、性別を問わない)。Esq.
を使うときの一般的な注意点は以下のとおり。
1) 個人宛の場合、かならず相手のフルネームとともに使う(ただしイニシャルは可)。
(○) Williams, Esq.
(×) John D. Williams, Esq.
(○) J. D. Williams, Esq.
2) 複数形 (Esqs.) を使った連名宛名の場合は、次のように相手の姓のみを使う。
e.g. Yamada and Doe, Esqs.
3) Mr. や Dr. などの敬称を2重に付け加えない。ただし Ph.D.
や M.D. (Medical
Doctor) などの学位称号は Esq. の後に付け加えることができる。
(×) Mr. John D. Williams, Esq.
(○) John D. Williams, Esq., M.D.
4) 冒頭敬辞には使えない。
(×) Dear Williams, Esq.,
(○) Dear Mr. Williams,
5) Esq. は男女の性別にかかわらず使用できるが、もとは男性に対する敬称であったことから、女性に対しては使わないとする説もある。したがって、特に指定のない限り女性宛の場合は他の敬称を使っておくほうがよい。
g) Dr. の使い方
相手が博士号の所持者である場合には、氏名の前に Dr. (= doctor)
を付け加える。これは相手の性別に左右されない。日本では博士号の有無をあまり表面に出すことはないが、欧米では博士号の所持者は当然のように
Dr. と明記し、相手にもこの敬称を使うよう期待する。なお、一般に、Dr. は後述の
Professorや Manager などのような単なるビジネスタイトルではなく、Mr.より上位のステータスを示す称号として理解されている。したがって、Dr.
の所持者に対しては、通常この敬称を使って相応の敬意を表するのである。特に技術系の企業では博士号を持っている人が少なくないので注意する必要がある。
相手が Dr. かどうか前もってわからない場合には、次のようにとりあえず
Mr. あるいは Ms.(or Mrs./Miss) を使っておく。
この場合、相手が Dr. であれば、返信では通常次のように署名欄にそれを明記してくる。署名欄にこのように明記してあれば、次回からは
Dr. という敬称を相手の名前に冠する。これを無視するのは失礼になる。
なお、Ph.D. (Doctor of Philosophy) の Ph. と D. の間にはスペースを入れず、D
はかならず大文字で表記する。[27]
[27] 原則として句読点の後には1文字分のスペースを加えるが、p.m.
や U.S.A. および Ph.D のような略語中のピリオドの後や、10:30 p.m. のように単なる区切りとして使うコロンの後にはスペースを加えない。また、省略を示すピリオドで文が終わる場合にはピリオドはひとつだけでよい(10:30
p.m.. のようにしないこと)。なお、英国では Mr., Mrs., Dr. などの略語につくピリオド(フルストップとも呼ぶ)を省略することがある。英国の文法学者
H.W. Fowler は、A Dictionary of Modern English Usage (Oxford University
Press, 1965) のなかで、この英国式の句読点省略法を法則化し、「略語がその原語の最初と最後の文字をふくむ場合はピリオドを加えない」と規定している。
複数の Dr. に宛てる場合、および Dr. の所持者とそうでない人に同時に宛てる場合の表記法は次のとおり。
h) Professor の使い方
大学などの教育機関に提出する文書では、相手が教授であれば
Professor John Doe のように Professor というタイトルを相手の姓名の前に冠する。標準的な宛名書きのスタイルは次のとおりだが、Professor
の代わりに Dr. という敬称を使ってもかまわない。
Professorは Prof. と省略することもあるが、Professor Doe のように相手の姓だけを使って表記する場合には省略形は使わない。なお、日本でいう「助教授」は欧米ではAssociate
Professor(準教授)といい、Assistant Professor は「助手」に相当する。これらと区別するために「教授」を
full professor と呼ぶことがあるが、これは宛名のタイトルとしては使わない。相手が助教授ないし準教授である場合の宛名は次のように表記する。
相手が博士号を持っていないときはMr. を使うことになるが、はっきりわからないときはとりあえずDr.
としておくか、例1) のようにProfessor を使っておく。また、相手のポジションが
full professor, associate professorあるいは assistant professorのいずれか不明な場合も、とりあえず例1)
のように表記しておくのがよい。講師 (lecturer) の場合は次のとおり。
同大学、同学部に所属する複数の教授に宛てる場合は、次のように表記する。なお、学部が違う場合は複数宛名にせず、それぞれ別個に出す。
なお、Professor などのタイトルはあくまで大学という教育機関内での職名であって、その職に直接関連しない私的な用件、あるいは社交上の通信には、本来こうしたタイトルは使わない。つまり、その職制ないし地位に対してではなく、その人個人に関わる用件であれば、一般敬称である
Mr.(または Dr.)を使う。ただし、教え子が元の教師に宛てた手紙などはこの限りではない。
i) c/o(気付)の使い方
手紙をある企業・団体気付として特定の個人に宛てる場合がある。たとえば、Japan
Trading 社の山田太郎氏が American Business Consultants, Inc. という企業に出向しているとする。この場合、山田氏宛てのレターは、次のように相手方の「企業気付」ないし「担当者気付」で出すことになる。
c/o は (in) care of の略で、いわゆる「…気付」という意味である。これは、ある企業・団体を気付として、その企業・団体の非構成員である特定の個人に通信物の送達を依頼するときに使う。したがって、厳密に言えば、その個人が当該団体の構成員(社員)である場合には使わない。なお、c/o
を特定宛名の代わりに使っているケースもあるが、これは誤用である。
j) To whom it may concern の使い方
To whom it may concern は日本語の「関係者各位」に相当する用語である。これは、たとえば各種証明書、推薦状、紹介状などで、その受信者が特定できない場合、あるいは特定の必要がない場合に、宛名の代わりとして広く使われている。
Figure 58: To whom it may concern を宛名代わりに使った証明書の例
この例は銀行が発行した預金(残高)証明書であるが、このような証明書では宛名を特定せず、To
whom it may concern としておくのが普通である。同じように、たとえば就職のための推薦状
や、紹介状 などを書く場合にも To whom it may concern を使うことがある。これによって、宛先を特定せず、汎用性を持たせるのである。
Figure 59: To whom it may concern を宛名代わりに使った推薦状の例
次にあげる例も推薦状の一種であるが、この例では To whom it
may concern を冒頭敬辞の代わりに使っている。
Figure 60: To whom it may concern を冒頭敬辞の代わりに使った推薦状の例
この例では宛先 (Japan Scientific Research Foundation) はわかっているが、担当者が不明ということで、冒頭敬辞を
To whom it may concern としているのである。しかし、本来、To whom it may
concern はこのように使うものではない。また、後述のように、冒頭敬辞は書中宛名に合わせるのが原則であるから、この例の場合、次のような表記法をとるのがよい。なお、後述のとおり、従来、企業・団体宛てのレターは
Dear Sirs(英国式)または Gentlemen(米国式)という男性複数形の冒頭敬辞を使っていたが、最近はLadies
and Gentlemen: のような男女兼用形の冒頭敬辞を使うのが一般的である。
k) 連名宛名の書き方
手紙を複数の個人に宛てる場合には宛先を連名にするが、この場合、日本文の場合と同じように、一般的には肩書きの序列に従って高位の人から順に記載する。肩書きを明示しない場合、または同格の肩書きを持つ相手の場合はどちらを先に書いてもかまわない。[28]
[28]この場合は、相手の年齢や当該の案件に対する関係の深さなどを基準に判断する。なお、男女連名の場合も性別は判断の基準にはならない。
女性複数宛名の表記例は次のとおり。役職名を記入する場合は前記
1) および 3) の右側に示した例と同じ書式をとる。
[29] Ms. の複数形は Mses. で [mi'ziz] と発音する。
[30] Mrs. のフォーマルな複数形は Mesdamesで、省略形は
Mmes. または Mdmes.となる(p. 105 の脚注45参照)。
l) 相手の名前の正しいスペリング、フルネーム、性別がわからない場合の処理
レターを書くときに、相手の名前の正しいスペリングがわからなかったり、ファーストネーム、あるいはラストネームのいずれかしかわからない場合がある。このようなケースでは、とにかく適当な綴り、あるいはわかっているほうの名を記入し、たとえば次のような形でスマートにその非礼を詫びておく。
もちろん、こうした問題が発生しないように相手の名前や企業・団体名は正確にメモしておくべきであることは言うまでもない。また、電話などで、一度聞いただけではスペリングがわからない場合には
Could you spell your name, please? などと問い返して確認する。これは失礼には当たらない。手書きのサインが判読できない場合にも、同じようにして正確なスペリングを確認しておくべきである。相手の企業・団体名あるいは氏名の正確な表記を確認するには、相手先のレターヘッドおよび名刺を参照するのが最も確実な方法である。
なお、相手のフルネームがわからない場合にはレター自体を企業・団体宛とし、個人名は次のように「特定宛名」(次項参照)を使って表記するのもよい方法である。こうすれば姓だけでもさして不自然ではない。
なお、通例、この場合の冒頭敬辞は Ladies and Gentlemen: を使うことになる(ただし、Dear
Mr. Doe: も可。詳しくは次項参照)。
また、相手の名前は正確にわかっても、その性別がわからないことがある。ビジネスライティングの参考書の中には、このような場合は男性形を使うのが一般的であるとしているものがあるが、これはその手紙が企業・団体宛の場合だけであり(ただし、前述のとおり、これもすでに一般的とは言えなくなっている)、個人宛、あるいは役職宛の手紙では礼を失する恐れがある。したがって、この場合にもやはり次のような表記法をとるのが無難である。
Figure 63: 相手の性別がわからない場合の処理
ただし、このようにわざわざこちらの不手際を強調する必要はないという考え方もあり、この場合は上例の宛先および冒頭敬辞は敬称なしで
のようにフルネームで表記し、第1パラグラフの文言は省略する。実際に米国から来るレターではこのような例が少なくない。米国人インフォマットによれば、このように書いたとしても、日本人が考えるような「呼び捨て」という感覚はないとのことである。[31]
[31] 最近では non-sexist salutation という観点から、むしろ、積極的にこのような宛名書きおよび冒頭敬辞のスタイルを採用するケースが増えてきている。たとえば、米国の新聞紙上で長期間にわたって人生相談のコラムを担当している
Ann Landers氏もこの立場に立つ知識人のひとりで、彼女のコラムへの投書はすべて
Dear Ann Landers: という冒頭敬辞で始まっている。関連解説は p.106 参照。
m) ファクスレターでの宛名表記
レターをファクスで送付する場合は、通例、メモランダム形式のフォーマットを使うが、
この場合、通例、To: の項目には受取人の名前、肩書き、企業・団体名を記入し、いわゆる
mailing address は省略する。その代わりに、次の例のようにFax No. という項目を別途設け、ここに相手のファクス番号を明記する。この場合、単に
+44 1-834-217* のようにファクス番号だけを記入してもよいが、海外宛のファクスの場合は間違いを防ぐためにも番号の後に都市名と国名(またはいずれか一方)を付け加えておくのが好ましい。[32]
[32] 都市名や国名は会社名の下に書き加えてもよい。ちなみに、この例に見られる
+44 1-834-217* という番号のうち、最初の + は国際通話であることを示す記号で、44
は英国の国番号を示す。次の1-834-217* のうち、最初の1はロンドンの市外局番(正確には01であるが、海外通話では市外局番の最初の0は省略する)で、その後の
834-217* が加入者番号である。
2.9.6 特定宛名(attention line)
すでに述べたように、ビジネスレターはある特定の案件に対して権限を持つ個人に直接読んでもらうのが一番よい。その意味で、書中宛名は特定の個人宛、あるいは役職宛とするのが原則である。また、相手先の組織が大きい場合には、宛先を特定していないレターは各セクションをたらい回しにされ、いつまでたっても担当者のもとに届けられないことがある。一方、レターを特定の個人あるいは役職宛にした場合には、仮にその相手がなんらかの理由で不在であれば、そのレターはいつまでも開封・処理されないままになってしまう恐れもある。
そこで、「個人宛」の長所を生かしつつ、かつその欠点を補うものとして、いわゆる「特定宛名」というものが考え出されたのである。これは、文字どおりその文書の宛先を特定したものであるが、仮にその個人が不在の場合は、他の関係者がそのレターを開封してよろしいという意志表示でもある。
以下の例に示すように、特定宛名を使用するレターの書中宛名は企業・団体宛となる。特定名宛人(受取人)氏名、およびその職位名は、書中宛名最終行からダブルスペースあけ、左マージンにそろえて書き加えるのが一般的な書式である。Attention
というリードは、Attention of . . . とか For the Attention of . . . とも書かれ、特に英国系の企業からくるレターでは後者の形が多い。Attention
を Att. または Attn. と略記することもあるが、メモランダムや電子メール、あるいはメモランダム形式のファクスレターなどの場合は別として、正式なビジネスレターでは省略形は使わないのが原則である。これは他の要素についても同じである
なお、Attention の後にはコロン(:) は不要という説もあるが、上記の例のような
Attention: という表記はひとつの項目を立てているのであって、厳密にいえばコロンを加えるのが正確な使い方である。ただし
For the attention of . . . あるいは Attention of . . .とした場合には、当然のことながらコロンは不要である。[33]
[33] これは後述の文書主題 (Re: またはSubject:) や同封物注記
(Enclosure:) などの場合も同じ。p.114の脚注50でも述べたとおり、コロン (:)
は「つまり」というほどの意味であって、その後に内容を説明する語句が続く。したがって、Enclosure:
またはEncl.: と書きながらその後に何も記入しないのはコロンの誤用である。なお、Webster’s
の Punctuation Guideではコロンの後のスペースは2文字分としているが、本書では原則として1文字分のスペースで統一した。ちなみに、従来、文末ピリオドとコロンの後には2文字分のスペースを加えるものとされていたが、最近のワープロやパソコンに最もよく使用されるプロポーショナルフォントでは各文字および句読記号の幅が自動的に調整されて印字されるため、特に2文字分のスペースにこだわる必要はなくなった。最近のスタイルブックの中には、わざわざ
“Don’t use two spaces after punctuation” (The Elements of E-mail
Style. David Angell, Addison-Wesley Publishing Co., 1994. p. 112) と明記してあるものもある。
Figure 64: 特定宛名の書き方(左寄せ方式)
この例は特定宛名表記の最も一般的な書式である。attention lineにアンダーラインを加えたものやすべて大文字で表記したもの、あるいは全体を中央寄せないし左寄せにしたものなどもたまに見かけるが、こうしたバリエーションは趣味の問題ということになる。
ちなみに、中央寄せにしてアンダーラインを加えた場合には次の例のようになる。通常、この方式では特定宛名を文書主題の代わりに使うことが多い。冒頭敬辞の下に文書主題を別途記入する場合にはこの書式は適当ではない。
Figure 65: 特定宛名の書き方(中央寄せ方式)
a) 特定宛名が長い場合の分かち書き
書中宛名の場合と同じように、特定宛名も一行には書き切れないほど長くなることがある。たとえば
Attention: Mr. Taro Yamada, Vice President and Director of Customer Services
Division のような例である。このようなケースでは当然これを2行に分けて書くことになるが、これも書中宛名の場合と同じように、レター用紙の左右中央線、ないし右端寄りに全体の2/3あたりの位置を改行の目安とすること、および
意味・内容のまとまり(ユニット)を崩さないこと、というふたつの原則に従って行分けする。
行のそろえ方については以下に示すふたつの方法がある。このうち、2)
のようにガイドワード(見出し語)語頭から2文字分のスペースをあけて2行目を書き出す方法は、項目を立てた記述の標準的な表記法である。この場合、3行目以下は2行目語頭にそろえる。ちなみに、いわゆるプロポーショナル文字では各文字の間隔が等しくないため、印字結果が正確に2文字分のスペースとならない場合があるが、これは特に問題にはならない。要は、文字入力の際に2文字分のインデントを入れるということである(行頭をきれいにそろえるためには、タイプライターまたはワープロのタブ機能を使う)。
なお、この例では Mr. Taro Yamada と Vice President および
Customer Services Division の3つはそれぞれまとまったユニットであり、原則としてこのそれぞれのユニットを2行にわたって分割表記することはできない(本文行末でのやむを得ない改行の場合を除く)。したがって、次のような書き方はいずれも不適当ということになる。
(×) Attention: Mr. Taro
Yamada, . . .
(×) Attention: Mr. Taro Yamada, Vice
President and . . .
(×) Attention: Mr. Taro Yamada, Vice President and
Director of Customer
Services Division
b) 封筒上の「特定宛名」の表記
特定宛名を使った場合は封筒にもこれを明記する必要がある。これは当然のことであるが、実際は案外忘れていることが多い。普通のビジネス封筒であれば宛先の下に1-2行分のスペースをあけて特定宛名を加える。これは、レター上での表記法に合わせるためである。ただし、封筒上での特定宛名は企業・団体名の上に記入する例も多い。
Figure 66: 封筒上での宛先および特定宛名の表記
アンダーラインは強調のためであるが、なくてもかまわない。なお、窓付き封筒を使う場合はあらかじめレターヘッド上に宛名表記の有効スペースの範囲をしめすガイドを印刷しておき、その範囲内に特定宛名を収めるようにする。書中宛名が長いために特定宛名が枠内に入り切らない場合には、封筒上の枠外の適当な位置(枠のすぐ下がよい)に特定宛名をタイプしておく。
2.9.7 冒頭敬辞(opening salutation)
日本語の手紙で使う「拝啓」などの頭語に相当するもので、本文に入る前の形式的な敬辞である。最近では冒頭敬辞を省略したビジネスレターも少しずつ増えてきているが、英文レターの冒頭敬辞は
“a strong attention getter” であり、現在のところほとんどのレターに使われている主要要素のひとつである。冒頭敬辞は次の例のように書中宛名の最終行からダブルスペースあけて左端マージナルラインにそろえて書く。特定宛名がある場合はその最終行から同じく2行分のスペースをとって書き始める。
最初の例では Dear Mr. Thompson: という特定個人名を使った冒頭敬辞を使い、2番目の例では
Ladies and Gentlemen: という男女兼用の複数形冒頭敬辞を使っている。[34]
[34]特定宛名がある場合の冒頭敬辞の数(単数・複数)の対応については
pp. 110-111の解説参照。
冒頭敬辞にはこのほかにも相手の性、数および既婚・未婚別に応じたパターンがあり、これを一覧表にすると次のようになる(Figure
69参照)。
このうち、1) の Dear Sir および 3) の Dear Madam は相手の名前がわからない場合のオプションで、通例は
2) または 4) のように相手の名前(ラストネーム)を使った呼びかけのスタイルをとる。なお、冒頭敬辞の語頭は
Dear Sir や Dear Madam のように大文字で書く。ただし、 My dear Sir や My
dear Madam (or My dear Mr./Mrs. [last name]) という形で使った場合は dear
の語頭を小文字で表記する(このスタイルの冒頭敬辞は Dear Sir/Madam や Dear
Mr./Mrs. [last name] よりフォーマルとされ、社交文書などで使われることがある)。
米国やカナダでは Dear Sir の複数形として Gentlemen を使う。これはおもに企業・団体宛のレターに使う冒頭敬辞で、Gentleman
のように単数形で使うことはない。また、冒頭敬辞に Gentlemen を使うのは北米独特の用法で、英国および英国系の国では
Dear Sirs を使う。なお、Mr. John Doe and Mr. Stephen Smith のように2名ないしそれ以上の男性複数個人宛のレターの冒頭敬辞は
Dear Messrs. Doe and Smithとなるが、この代わりにGentlemen または Dear Sirs
を使ってもかまわない。なお、Messrs. はフランス語 Monsieur の複数形
Messieursの省略形で、一般に
Mr. の複数形として用いられる(関連解説は p.88参照)。
Figure 69: ビジネスレターの冒頭敬辞一覧表
3) の女性・単数形敬辞 Dear Madam は既婚・未婚にかかわらず使うことができる。この複数形は
Mesdames またはLadies であるが、これは相手の企業・団体が女性だけからなる場合に使うもので、使用頻度はごく少ない。このうち、後者はおもに米国式である。Mesdames
はフランス語からの借入語で、省略形は Mmes. または Mdmes. となる。 Ms. は
Mr. に対応するものとして、1973年以降、国連でも公式採用されており、特に米国企業では女性に対してMs.
を使うケースが多くなっている。なお、Ms. は省略語ではないが、常に Ms. という形で使う。複数形は
Mses.で [mi'ziz] と発音する。[35]
[35] Mesdames は女性複数形の冒頭敬辞として使用可能ではあるが、一般に
“ (This form) is obsolete and should not be used.” (The Bantam Book
of Correct Letter Writing. Bantam Books, Inc. 29th printing, 1983.
p. 230) とされている。同じように、一般に英米の関連書には男女兼用の複数形冒頭敬辞であるDear
Sirs and/or Mesdames は掲載されていないことが多い。これに対応する単数形のDear
Sir or Madam が可能であれば、当然、その複数形もあってしかるべきであるが、これは
“Even very educated readers in the U.S. would have difficulty pronouncing
these French forms [e.i. Mesdames and Messrs.] and would likely consider
the writer odd.” (Business Writer’s Quick Reference Guide. Terry
Bacon, et al. John Wiley & Sons, Inc., 1986. p. 100) という理由による。このように、可能ではあっても実際にはあまり使われないということを考慮して、この一覧表ではこのふたつをかっこで括って表示した。
6) の Dear John Doe(or Dear Jane Doe) は相手の性別がわからない場合のオプションである。従来はこのように冒頭敬辞に相手のフルネームを使うスタイルは不可とされてきた。[36]
ただし、最近では non-sexist salutationという観点から、従来の Dear Sir や
Dear Madam あるいは Dear Mr. Doe や Dear Ms. Doe といった性別を明示する書き方に代わって、このように相手のフルネームを敬称なしで使った冒頭敬辞を使用する例が増えてきている(関連解説は
p. 99参照)。
[36] たとえば Longman Business English Usage (Longman,
1992. p. 124) では、“We would not write Dear Sarah Jones” と例を挙げて明確に否定している。これは従来の伝統的な考え方によるもので、かならずしも最近の実態を反映していない。ただし、Dear
Mr. John Doe やDear Mrs. Jane Doe のようにフルネームに性別を明示する敬称を加えたスタイルは完全な誤用である。
a) 非性差別用語の使用について
米国では、たとえば businessman の代わりに business people
という表現を使い、chairman の代わりに chairperson を使うといったように、いわゆる
non-sexist(非性差別)用語への転換がかなり進んでいる。こうした傾向は聖書の記述やその用語法の見直しにまで及んでいる。これに伴って企業・団体宛の複数形冒頭敬辞にもこれまでの
Dear Sirs やGentlemen に代わって Ladies and Gentlemen などの中立的な表現を使うケースが増えている。
米国では男性形の Gentlemen に代わって Gentlepeople とか
Gentlepersons などという表現も提案されているが、これは造語臭が強く、まだ一般的な用語として定着していない。最近では、性差別的な用語の使用を避けるために、前述の
Dear John Doe のようなスタイルのほかに、Figure 69の 7) に示した Dear Manager
のような役職名を使った冒頭敬辞や、Dear ABC Company や Dear Engineering
Departmentといった、これまで不可とされていた用法も認められつつある。たとえば、J.B.
Buschine and R.R. Reynolds による最新のテキストには次のような用例が紹介されている(Communicating
in Business. Houghton Mifflin Company. 1986. p. 40).
Figure 70:「部」(Department) 宛の冒頭敬辞の例
(図省略)
b) 書中宛名と冒頭敬辞との呼応例
冒頭敬辞は書中宛名に正しく呼応させる必要があるが、個人宛、役職宛、企業・団体宛の3つのケースを例にとって、それぞれの具体例と応用例を以下に示す。
企業・団体宛の場合は、従来は3-1) のように男性複数形の Gentlemen:
または Dear Sirs: を使ってきたが、最近では 3-3) の Ladies and Gentlemen:
という男女兼用形の冒頭敬辞を使うのが常識になっている。なお、相手の企業・団体が女性だけからなるような特殊なケースもないとはいえない。この場合には
3-2) の Ladies:(または Mesdames:)という女性複数形の冒頭敬辞を使うことになる(反対に、相手が男性だけからなる企業・団体であれば、3-1)
に示した男性複数形の冒頭敬辞を使う)。
なお、相手の名前の正しいスペリングやフルネームがわからない場合、あるいは個人宛のレターで相手の性別がわからない場合の処理の仕方については
Figure 61からFigure 63 (pp. 97-99) を参照。
c) 不特定多数の個人またはグループに対する冒頭敬辞
前記の冒頭敬辞のほかに、ダイレクトメールやサーキュラーレターのように同一文書を不特定の複数個人ないしグループに宛てて出す場合がある。通常、このようなケースでは共通の代名詞を冒頭敬辞に使う。たとえば次の
Figure 71 に挙げた4つの例ではそれぞれ次のような代名詞が使われている 。
1) Dear Friend
2) Dear Teacher
3) Dear Parent
4) Dear Alumnus
Figure 71:同一文書を不特定の複数個人ないしグループに宛てて出す場合の冒頭敬辞の例
(図省略)
d) 冒頭敬辞の句読点
冒頭敬辞末尾の句読点は、英国ではカンマ(,) を使い、米国ではコロン
(:) を使う。両者の使い分けについて Webster's では “Use a colon
following the salutation of a formal letter. In informal letters a comma
may be used.”(正式なレターの場合には冒頭敬辞の後にコロンを使い、私信あるいは非公式なレターではカンマを使ってもよい)と規定し、次のような用例を挙げている。
Dear Mr. Brown: (formal)
Dear Sir: (formal)
Dear Bob, (informal)
ビジネスレターはここでいう formal letter であるから、米国式に従えば原則としてコロンで統一するのが好ましいということになる。特に、米国式の
Gentlemen: および Ladies and Gentlemen: を使った場合には句読点も必然的にコロンとなる。ただし英国ではこの違いを認めておらず、冒頭敬辞の句読点にはすべてカンマを使っている。[39]
[39] 米英いずれの場合もセミコロン (;) だけは絶対に使わない。この点について、Cecil
B. Williams は Effective Business Writing の中で “The semicolon
is entirely wrong. Nothing more surely betrays ignorance of basic principles
in business writing than using the semicolon with the salutation.”(セミコロンはまったくの間違いである。冒頭敬辞にセミコロンを使うことほど、ビジネスライティングの原則に対する無知を示すものはない)と述べている。
なお、通常のビジネスレターでは Dear Bob, のようなファーストネームを使った冒頭敬辞は使わない。これは仮に相手と互いにファーストネームで呼び合えるような親密な関係にある場合でも原則として同じである。ファーストネームを使った冒頭敬辞は、いわゆるパーソナルレター(私信)とメモランダムや電子メールなどの社内文書に限られる。
e) 特定宛名がある場合の冒頭敬辞の数
冒頭敬辞の単数・複数形は宛名の数に呼応させるが、特定宛名が入った場合には特に注意が必要である。以下に示すとおり、書中宛名が企業・団体宛になっている場合には、通例、特定宛名のあるなしにかかわらず冒頭敬辞も原則として複数形となる。
Figure 72: 特定宛名がある場合の冒頭敬辞の例1(複数形呼応)
ただし、実際にはその手紙が企業・団体宛であっても、個人宛の特定宛名がある場合には
Dear Mr. Thompsonや Dear Sirのように単数形の冒頭敬辞を使うケースが少なくない。たとえば次のような例である。
Figure 73: 特定宛名がある場合の冒頭敬辞の例2(単数形呼応)
厳密にいえばこのような使い方は誤りである。しかし、特定名宛人を想定して書いた場合には、このようにその個人に直接呼び掛ける形にするのが自然だという観点から、現在はこの形もよしとする傾向にある。ちなみに、本書に掲載した文例の中では
Figure 37と Figure 38(および Figure 64 と Figure 65)の例が単数形対応となっており、Figure
43 のサンプルレターが複数形対応となっている。どちらに対応させるかは各個人(あるいは各企業)が独自に決めればよいことである。
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