2.1 レター用紙の選択基準
ビジネスレターに使用する用紙にはさまざまなタイプのものがある。どのような紙質のレター用紙を選ぶかは、コストや用途にもよるが、ビジネスレターは企業・団体を代表する顔であり、できるだけ質のよいものを選ぶ必要がある。用紙の選択は、レターヘッドデザインのよしあしとともに、メッセンジャーとしてのビジネスレターの与える印象を決定づける重要な要素のひとつである。
レター用紙選択の一般的な基準は (1) プリンター、またはタイプライターによる均一な印字ができること、(2)
インクの吸収性がよいこと、(3) ファイリングに耐えうる強靭さを持っていること、(4)
ホワイトインクでの修正、および PPC(普通紙)コピーに適した白色用紙であること、などである。最近は、資料の長期保存という観点から、保存適性の高い中性紙(酸性紙のおよそ
4 倍の寿命を持つ)を使うようにしているところも多い。ただし、通常の酸性紙でもおよそ
25年から100年の寿命を持つとされており、これは一般的なビジネス文書の必要保存期間をはるかに超えている。ちなみに、ビジネス文書の法定保存期間は最も長いもの(商業登記関係書類)でも20年である。
通常、ビジネスレター 1通を作成するのにかかるコストのうち、レター用紙自体の占める割合はおよそ
5 パーセント未満とされている。紙の値段は業者や購入方法、枚数によってもかなり差が出てくるが、通例、洋紙の取り引きは全紙1000枚単位(連)で行われ、その値段は紙の種類ごとの単価に1連の重さ(kg)をかけて計算する。たとえば、B判全紙1連/75
kg の上質紙(最も標準的な書籍・筆記用紙で、キログラム当たりの基準単価はおよそ
150円:1997年8月現在) では 150円 x 67.5 kg = 10,125円/連ということになる。B判全紙からB4判の用紙を8枚とると、B4判1枚当たりの単価はおよそ1円25銭になる。同じ紙質で厚さ(重さ)が倍になれば値段も倍になる。
紙の名称は、上質紙、中質紙、あるいはボンド紙、オニオンペーパーなどいろいろとあり、それぞれ厚手、薄手の別がある[1]。一般に雑誌などに使われる紙はおよそ
40-55 kg/連、一般書籍では75-90 kg/連程度である。米国では 20-24 pounds
(およそ90-110 kg) のボンド紙がビジネス文書用紙として最も多く使われている。
[1] bond paper とは証券・債券などの印刷用に使われる上質の用紙。オニオン(スキン)ペーパーとは、その名のとおり玉ねぎの薄皮のような、ごく薄く張りのある用紙を指す。
実際にサンプルを取り寄せて選ぶ
紙の実際の感触や使い勝手は用紙の一般呼称や重さだけではなかなか分からない。たとえば、同じ「白」でも青味がかった白や、赤味あるいは黄味のある白など多様なバリエーションがあり、表面の光沢や風合いも一様ではない。
用紙の選択を誤るとせっかくのレターヘッドデザインが生きてこないこともある。したがって、会社で新たにレターヘッドを大量印刷する場合は、発注前に用紙サンプルを取り寄せ、実際に手に取って検討する必要がある。紙の流通各社はそれぞれ「紙見本帳」をそろえており、サンプル紙には1枚ずつ銘柄名、連量(1000枚の紙が何キログラムあるかを示す数字)、色名、原紙サイズ、紙の目(T=縦目、Y=横目)が示されている。なお、1ページ目のレターヘッドには厚手の紙を使い、2ページ目以下の
continuation sheet には薄手の用紙を使っている例があるが、これはステイプラーなどで綴じた場合に2ページ目以下がバラけやすくなる。原則としてレター用紙はすべて同じ紙質のものを使うべきである。
2.1.1 レター用紙のサイズ
日本で一般に使用されている用紙サイズには、JIS
規格で定められたA判とB判があり、それぞれ数字でその大きさを規定している。基準となるA
0判、およびB 0判の仕上がり面積は、それぞれ 1 m2 (841 mm x 1189 mm)、1.5
m2 (1030 mm x 1456 mm) と定められている。市販されているのはその半分のA1/B1判からで、これをA判またはB判の全紙と呼ぶ。
Figure 10: JIS 規格による統一用紙サイズ(A判/B判)
(図省略)
Figure 10に示したとおり、A判、B判とも0から6まで数字が大きくなるごとにサイズが小さくなり、A1/B1(全紙)の半分が
A2/B2(半切り)、その半分が A3/B3(四つ切り)、その半分が A4/B4(八つ切り)となる。各判型のJIS規格寸法は以下のとおり。
2.1.2 ビジネス文書はA判が標準
上記の各用紙サイズのうち、一般文書用に使われるのはA3、A4、B4、B5の4サイズであるが、従来、JIS規格によって公文書の規格サイズはB判と決められていたため、一般企業もこれに合わせて、一般文書や申請書・届書などにはB5判を、図表などの資料にはB4判を使っていた。しかし、B5判は紙面上に記載できる情報量が少く、B4判はファイリング上の問題が残るなど、B判用紙は「帯に短し、たすきに長し」のところがある。このため、実業界を中心にA判規格用紙への転換が進んでいたが、この実態を反映する形で、1992年6月の臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)で公文書のA判化が正式に答申された。政府は、これを受けて翌年の4月から国の行政機関で取り扱う文書を原則としてA4判に統一することを決定している。現在では各市町村の役所を含め、ほとんどの行政機関および民間企業で、一般文書にはA4判、図表などの資料にはA3判と、すべてA判を基準とするようになっている(ただし、地図や免状などA判化になじまないものを除く)。
2.1.3 インチ基準のレター用紙
わが国で採用しているメトリック基準の用紙サイズは、ISO(国際標準化機構)によって国際サイズとして認定されており、欧米(特にヨーロッパ諸国)でもレター用紙にA4サイズを採用する企業が増えている。しかし、米国では依然としてほとんどの企業がインチ基準の用紙を使っており、一般には横8.5インチ、縦11インチの用紙がビジネス文書に最も多く使用されている。これをレターサイズと呼ぶ。日本ではどういうわけかこのサイズをインターナショナルサイズと呼ぶことがあるが、国際標準ではない。
なお、ひとくちにレターサイズといっても、実際は 8インチ×11インチの標準サイズのほかに、横8インチ基準の用紙もあり、縦の寸法も
10インチ、10.5インチ、11インチと少しずつ違うものが使われている。このうち
8×10 (or 10.5) のものを特に airmail size とか official size と呼ぶことがある。レターサイズをひとまわり小さくしたものが、モナーク
(Monarch: 7.25"×10") とかエクゼクティブ (Executive: 7.25"×10.5") と呼ばれるもので、主として役職者の個人専用レターヘッドに使用される。公文書などには、レターサイズを縦長にしたリーガルサイズ(またはフールズキャップ)と呼ばれる用紙が使用されることがある。メモランダムに使う用紙サイズは一般にバロニアル(またはハーフシート)と呼ばれる。最近多く使用されるようになってきたコンピュータ用の連続用紙も現状ではインチ基準となっている。Figure
12 および Figure 13 はこのうち代表的な用紙の規格寸法を比較したものである。
Figure 12: インチ基準の標準用紙サイズ比較
(図省略)
用紙サイズの不統一は、国際的な規格統一という点で問題が残る。しかし、米国や一部のヨーロッパ企業、あるいは政府機関で依然としてインチ基準の用紙を使っているからといって日本企業が自社規格をこれに合わせる必要はない。ただし、外国の企業や政府に提出する入札書類や各種のプロポーザルなどは相手の指定するサイズにしたがっておく。FCC(米国連邦通信委員会)では、1983年1月1日以降、同委員会に提出する書類はすべてレターサイズ
(8.5"×11") に統一するとの通達を出している。ガットコードによって国際標準優先が義務付けられているにもかかわらず、これ以外の規格は受理しないというのであるから、相手に合わせるしかないのである。
2.2 英文ビジネス文書に使う英文字のサイズ、字間、および行間
ビジネス文書は相手に読んでもらうためのものであるから、できるだけ読みやすい文面になるように心がける必要がある。「読みやすさ」は文章構成や内容に大きく左右されるのはもちろんであるが、字のサイズや字体、字詰(文字間隔)、行詰(行間隔)、あるいは全体のレイアウトなどにも影響される。
2.2.1 文字のサイズとピッチ
かつて、タイプライターを使って英文文書を作成していた時代には、文字のサイズは「パイカ
(pica)」および「エリート (elite)」という呼び名で表されていたものを使うのが一般的であった。前者は1インチ当たり10文字
(10 CPI/ Characters Per Inch)、後者は1インチ当たり12文字 (12 CPI) 入る英文字の大きさを示す。参考までに、従来、米国および日本企業で圧倒的なシェアを誇っていたIBM電子タイプライターで使用されている英文字の印字サンプルをFigure
14に示す(縮小率80%)。
Figure 14: IBM電子タイプライターの英字フォント例
(省略)
ドットマトリクス・プリンターでは、同じ大きさの文字を使って印字ピッチを変化させる。この場合も、パイカピッチは
10 CPI、エリートピッチは 12 CPI となる。それぞれの実際の印字イメージは次のとおりである。
Figure 15: ドットマトリクス・プリンターによる印字ピッチの違い
(省略)
ただし、最近はタイプライターの代わりにパソコン(またはワープロ)上で文書を作成し、これをそのままレーザープリンターで出力するのが一般的である。現在のワープロソフトにはさまざまなフォントが内蔵されており、そのサイズや字詰めもユーザーが自由に指定できるようになっている。また、ほとんどのフォントがいわゆるプロポーショナル印字対応となっているのが特徴である。以下に、標準的なワープロソフトに内蔵されているフォントの例を示す。
Figure 16: 標準的なワープロソフトのフォント例
[3]
[3] マイクロソフト社のワープロソフトMicrosoft Word に内蔵されているフォントを使って印字した例(フォントサイズと字送り幅はいずれも9
ポイント指定)。このうち、最後のフォント(Courier New) 以外はすべて各文字ごとに印字幅が自動調整されるプロポーショナル印字になっている。
2.2.2 行間隔と1行の長さ
フォントサイズと字詰め幅(ピッチ)のほかに、行間のとりかたも読みやすさに大きく影響する。行間は「あまり狭くしすぎると上下の行に圧迫されて読みにくくなるし、次の行に移るときに行を間違えやすく」なる(『造本の科学』日本エディタースクール)。かといって、行間があまり広すぎても間延びして、しまりのない文面になってしまう。
通常、英文はシングルスペース (single space)、ダブルスペース
(double space)、あるいはこの中間のセミダブルスペース (semi-double space)
のいずれかでタイプする。シングル、ダブル、セミダブルというのは一般的な呼称であって、厳密には1インチ当たりの行数(これを
LPI = Lines Per Inch という単位で表す)を基準とする。タイプライターでは機種によって行間隔が多少違ってくるが、通常、シングルスペースが
6 LPI、セミダブルスペースが 5 LPI あるいは 4 LPI 、ダブルスペースでは 3
LPI となる 。[4]
[4] いずれも、パイカまたは 10ポイントのフォントを使った場合。エリートまたは9ポイントのフォントの場合、シングルスペースがおよそ7
LPI になる。
なお、一般のワープロでは1ページ当たりの行数を指定することで行間は自動的に設定されるようになっているのが普通だが、必要に応じて行間をミリ単位またはポイント単位で指定することもできる。この場合、シングルスペースは行間=12ポイントに相当し、セミダブルスペースが16ポイントから18ポイント、ダブルスペースが24ポイントとなる。参考までに、それぞれの印字イメージを以下に示す。
Figure 17: シングル、セミダブル、ダブルスペースの印字イメージ
一般に、ビジネスレターの行間はシングルスペースにすることが多いが、読みやすさを優先した場合にはセミダブルスペースを使うこともある。ダブルスペースは、manuscript
spacing と呼ばれているように一般には原稿段階で使用するものとされている。専門雑誌に発表する論文などは、その原稿をダブルスペースにするように指定していることが多いが、これは編集者が原稿の校正をしやすいように行間を広くとるのである。ビジネスレターでは、本文が6行前後のごく短いものである場合に、全体のバランスを考慮してダブルスペースにすることがある。
2.3 英文ビジネス文書の上下左右マージンのとりかた
通常、英文ビジネス文書の上下左右マージン(余白)は、少なくとも1インチとるものとされている(JIS
規格では 20-25 mm)。マージンの幅は文章の量や文書の性格によって多少異なるが、一般的な報告書や契約書、あるいは専門雑誌に発表する論文などでは次ページの
Figure 18 に示すようなマージンのとりかたを標準とする。
このうち、例1) は通常の白紙A4ないしレターサイズ用紙を使う場合の表紙ページの標準マージンを示し、例2)
は2ページ目以下の標準マージンを示す。いずれも左マージンはファイルの綴じしろを考慮して決めるが、通常、およそ1インチの綴じしろがあれば実務上は特に支障はない。しかし、一般に左マージンはやや広めに1.5インチとすることが多い。なお、左マージンを1.5インチとする場合は下マージンも同じく1.5インチとするが、必要に応じてこれを1インチまで下げることができる。この
0.5インチの範囲で行分けの調整をするのである。ダブルスペースでは±1行、シングルスペースでおよそ±3
(〜5) 行の調整が可能である。
Figure 18: 英文ビジネス文書(レポートなど)の上下左右マージンのとりかた
(省略)
例2-1) は上下左右マージンいずれも1インチで統一したもので、一般のビジネスレターでは最も標準的なものである。例2-2)
のようなマージンのとりかたは、通例、後から修正や書き込みを入れるための草稿などに使う。ただし、本文がごく短いもの、たとえば形式的な招待状、借用書、あるいは簡単なリストなどを作成する場合に、全体を紙面上にバランスよく配置したいときなどにもこのマージン幅を使うことがある。なお、ページ番号の書き方については
pp. 155-156 参照。
レターヘッドの標準的なマージンのとりかた
ビジネスレターに使うレターヘッド(1ページ目)の標準的なマージンのとりかたはおよそ次図に示すとおりである。一般に、レターヘッドの上マージンは用紙の冒頭に印刷されている社名およびアドレスなどの一連のデータの最終行から2行分以上とり、2ページ目以降の上マージンは1インチを標準とする。左右マージンは本文の量に応じて調整するが、およその目安としては、本文が6行程度の短いものではやや広めに1.5
インチ程度のマージンをとり、それ以外の場合は1インチを標準とする。2ページ目以降の左右マージンの幅は1ページ目に合わせる
。
Figure 19: レターヘッド上下左右マージン
(省略)
2.4 企業イメージのメッセンジャーとしてのレターヘッド
レターヘッドとは文字どおりレター用紙の頭の部分という意味であり、企業・団体のシンボルマーク、社名、アドレス、電話番号などが印刷された、レター用紙上部のスペースを指す。一般には、そのようなデータが印刷された正式なレター用紙そのものをレターヘッドと呼んでいる。
欧米にはレターヘッドのデザインを専門とするレターヘッドデザイナーがおり、またレターヘッドデザインを含めたトータルなCI戦略を専門とするコンサルティング企業も多い。欧米企業では、ビジネス用のレターヘッドや封筒、名刺などの、いわゆるビジネス・ステーショナリー
(business stationery) はこうした専門家の手によって、それぞれの企業のイメージを伝える総合的なCI
(corporate identity) 戦略の一環として制作されるのが普通である。
一方、わが国では、レター用紙、封筒、名刺などについては、従来、単なる事務消耗品としての位置付けしか与えておらず、したがってこれらに金をかけるという発想がなかった。これは、企業イメージのメッセンジャーとしてのレターヘッドのメディア価値に気がついていないからである。
2.4.1 企業イメージとCI戦略
現代はイメージの時代である。あらゆる商品は、消費者の手にわたる前に広告メッセージとして記号化され、まず、ひとつの「イメージ」として消費者に伝えられる。消費者は、物を直接手にとって見る前に、記号化された架空の商品によって実際の商品のイメージを形成し、ついにはそのよしあしまで決定する。ジャン・ボードレアルは、これを「消費される物になるために、物は記号にならなくてはならない」と、鋭く看破してみせた。消費者はイメージで買い、ついにはイメージを買うのである。
商品の売れ行きは、その商品、およびそれを作る企業のイメージに左右される。広告メッセージのよしあしが商品や企業のイメージを形成し、その評価を決定するという逆転現象は、今や決してめずらしいことではない。さらに、多種多様な商品が市場に氾濫し、個々の商品の差別化がいっそう困難になる中で、消費者は、ますます企業名(ブランド・イメージ)によって商品を選択するようになってきている。ボードレアルの言葉にならって言えば、消費者に受け入れられるために、企業は自らを記号化しなくてはならない時代なのである。
企業の記号化とはコーポレートイメージの確立であり、これを総合的かつ戦略的に行うのが、いわゆるCIと呼ばれるものである。CIコンサルタントとして実績のある
Landor Associates 社の副社長であるミム・ライアン女史によれば、CIには corporate
identity, corporate identification および corporate image の3つの局面がある。corporate
identityとは企業としての目標、経営スタイル、労使関係、商品生産・販売の基本ポリシー、さらに従業員のモラルにまでおよぶ総合的な企業存立の理念を指す。corporate
identification とは企業理念の具体的、象徴的な表現手法、およびその手段であり、企業名、シンボル、ロゴタイプといったコミュニケーション要素が含まれる。corporate
imageは、こうした対消費者コミュニケーションの記号的成果ということになる。
日本にも企業理念としてのCIという発想は古くからあった。しかし、そのほとんどは自社従業員に向けた倫理規範・綱領としての、いわばメンバー規約のようなものであり、これを企業活動全体の中に戦略的に位置付け、商品とともに、それを作る企業のトータルなイメージを消費者に売り込むという発想がなかった。その結果、日本企業のレターヘッド、ファクス用紙、メモランダム、封筒、および各社員の使う名刺を含むビジネス・ステーショナリーは、概してメッセージ性に欠けており、そのデザインはおおむね保守的、類型的であった。
しかし、1980年代になって、CIに対する各企業の認識は急速に変化し、この10年ほどの間に数多くの企業が自らのコーポレートイメージを刷新、ないし確立するために、さまざまなレベルでのCIの導入に取り組んできた。その中から、たとえばケンウッドの事例のように、いくつかのサクセスストーリも生まれてきている
。これら各企業のCI戦略の中核となるのが、それぞれの企業理念を象徴するシンボルマークである。
2.4.2 CIも企業と共に変化・発展する
三菱化成工業は、1988年6月1日をもって、社名から「工業」の2字を削除して、三菱化成と改名し、これに伴って従来のスリーダイヤマークに代わって、下図のような楕円形のシンボルマークの採用を決めている。同社の鈴木精二社長によれば「従来のマークは整然とし、堅実で、組織だっていて高貴でもあるが、まとまりすぎていて堅い感じがある。今の時代には変転きわまりなく、無限に発展の可能性がある新マークが似つかわしい」(日本経済新聞
昭和62年11月5日号朝刊)と語っている。
Figure 20: 三菱化成の新シンボルマークとロゴ
(省略)
このシンボルマークをデザインしたエクシコ社(本社ニューヨーク)によれば、楕円の形状は宇宙を、色(スカイブルー)は生命の源である水を象徴し、それぞれ宇宙分野、生命工学分野への意欲を示している。ともあれ、三菱化成が20数億円にものぼるといわれる巨額の経費をかけて行った企業イメージ刷新の中核となるのが、このシンボルマークである
。同社では、このシンボルマークを一般文書用レターヘッド、封筒、および各社員の名刺に印刷し、新しい企業イメージのメッセンジャーとして活用している。
このほかにも、CIを導入した一流企業として、東京ガス、ワコール、美津濃、森永製菓、千代田化工建設、NTT(旧電電公社)、コカコーラ、IBMなどがあり、それぞれの企業シンボルマーク、社名ロゴの変更事例は次のとおりである。
Figure 21: CIシステム導入に伴う、企業シンボルマークの変更事例
(省略)
Figure 21 の事例中、IBM社によるシンボルマークの変更例は、従来のタイプライター活字をそのまま使った職人的なイメージから、高度な先端技術を予感させる、より近代的なイメージへと見事に脱皮した画期的な成功例である。スカイブルーの新しいシンボルマークは「ビックブルー」の愛称とともに、一種の憧れと親しみを持って消費者に受け入れられている。このロゴの伝えるメッセージは、同社がすでにその社名
(International Business Machines) どおりの単なる事務機器メーカーではなく、時代の最先端を行くグローバルな近代企業であることの宣言にほかならない。IBM社の新しいシンボルマークは、時代のコンセプトを見事にとらえた好例として、その後のロゴデザインのモデルとなった(同社のcorporate
colorであるスカイブルーは、現在最も流行しているシンボルカラーとなっている)。同じように、西側先進国企業のCIデザインに大きな影響を与えたものとしては、AT&T社およびアップル社のシンボルマークがある(Figure
22 参照)。
AT&T社のシンボルマークに見られるデザインコンセプトは、基本的にはIBMのものと同じ系列に属し、そのイメージはシャープでメカニカルなものである。このイメージは日本の第二電電
(DDI) を含めた通信系、電子機器系企業のシンボルマークに継承されている。一方、アップル社のデザインの基調トーンはソフトでヒューマンなものであり、どこかコミカルでさえある。アップル社のシンボルマークはモダニズムからポストモダニズムへのデザイン基調の変化を予感させるが、この変化を最も鮮明に、かつほとんど芸術的なレベルで表現しているのがスペイン政府観光局のシンボルマークである。
Figure 22: 現在のCIデザインをリードするシンボルマーク
(省略)
2.4.3 各種ビジネスレターヘッドの実例
レターヘッドのデザイン要素は、基本的には (1) 用紙の選定、(2)
フォント(活字の種類)の選択、および (3) レイアウトの3つである。これに、たとえばタイプライターやプリンターの打ち出し位置を示すガイドを活字の位置で指定したり、必要なデータの記入洩れを防ぐための各種の機能上の工夫が加わる。いずれにせよ、『世界のレターヘッド』(グラフィック社)という著書を持つデザイナー、五十嵐威揚氏の言うように、「デザインされたレターヘッドは文章がタイプされて完成するのであり、その最終的な状態においてデザインが評価されることになる」
[8] のであって、デザインがレターヘッド本来の機能を妨げるようなものであってはならない。
[8] 日本経済新聞1987年2月9日朝刊掲載エッセー「せめて便せんに薄化粧」より。
五十嵐氏も述べているように、ヨーロッパ企業のレターヘッドは総じておとなしいデザインが多く、米国企業のものは大胆なデザインで、しかも金をかけたものが目立つ。特に最近ではシンボルマークや文字のデザインに凝るだけでなく、鮮やかな色彩を巧みに配したものも増えてきている。一方、日本企業のレターヘッドデザインはこれまで「概して保守的で類型的」なものが多かったが、最近では、前述のようなCIシステムの導入にともなって斬新なデザインを持ったレターヘッド(および、名刺、封筒、メモランダム用紙などのビジネス・ステーショナリー)が増えてきた。
Figure 23 (pp. 44-45) に挙げた10 のレターヘッド例は、それぞれ中央配置型
(例1,例3)、左右均衡配置型 (例4,例7)、左ブロック型 (例8,例10) の例である。例1は典型的な中央配置型のデザイン例だが、伝統的なデザインパターンでありながら社名その他のデータの印字サイズおよび字体の適切な選択によって全体にスッキリした近代的な印象を与えている。ただし、シンボルマークの比重が大きいためにやや頭が重くなるきらいがあり、視覚上の焦点
(optical center)も、実際の中心点よりかなり上にくることになる。したがって、全体のバランスをとるためにはサイン欄もセンタリング方式(Figure
83, p. 119 参照)で配置する。一般に、このようなデザインではブロック式のレターフォーマットは不適当である。
例2、例3も典型的な中央配置型の例であり、日本企業のレターヘッドに最も多く見られるデザインである。例1と比較するとやや保守的、類型的ということもできるが、むしろ意図的に誠実さ・堅実性といったイメージを狙ったものと解釈すべきだろう。例2では、上部中央位置のシンボルマークと左右両端の印字データ部を結んだ三角点の下角にひとつの見えないフォーカスを作り、その下に視覚焦点、さらにその下に用紙の中心点がくるというデザインになっている。シンボルマークをこの位置に配置することで、このように段階的に4つの垂直フォーカスを作り出しているのである。ただし、左右両端の印字データ部の水平バランスがとれていないのが難点である。例3は単に必要なデータを印字しただけのもので散漫なデザインである。なお、この例に見られるように、英国では
1916年以降に設立された企業は、取締役 (director) の氏名、企業の法人登記番号
(registration number)、登記所名・所在地などをレターヘッドに明記することになっている。
例4は左ブロック型のデザインを基調としながら、右端の印字データ部にそれぞれ意図的なフォーカスを配置することによって視覚上のバランスをうまくとっている。例5、例6はいずれも左端に印字データ、右端にシンボルマークを配置した例である。例6に見られるシンボルマークは、NTT(旧電電公社)の民営化にともなう意識変革とその事業内容を象徴的に表現したもので、これまでになかったタイプの大胆なデザインである。英字ロゴタイプは前出のAT&T社のデザインをベースとしているが、AT&T社のものに見られるようなシャープさはなく、むしろメカニカルな堅いイメージを前面に押し出し、ある種の権威的なトーンを強調している。
例7はCI戦略コンサルタント企業として知られているランドーアソシエイツ社のレターヘッドデザインである。同社の本社は、サンフランシスコの第5埠頭に係留されているフェリーボートそのものであり、このシンボルマークは同社の
CIとしてたいへん強烈な自己主張となっている。
例8から例10までのレターヘッドは、いずれも左ブロック型の典型的なデザイン例である。このタイプのデザインでは、レターフォーマットにもフルブロックフォームを採用するのが普通だが、必要に応じて右端のスペースに日付、文書番号などを記入することもでき、いわゆるデッドスペースが最も少ない効率的なデザインである。例9はシネクティクスと呼ばれる発想法の普及を目的とした教育団体のものである。このシンボルマークは、発想の展開、あるいは一般意味論でいうところの「抽象の梯子
(abstraction ladder)」を象徴的に表したものである。例10は米国の一流エンジニアリングコンサルタントのレターヘッドである。国内のエンジニアリング関連企業のレターヘッドデザインは、どこか無骨で、いわゆる「土木」のイメージが勝ち過ぎるきらいがあるが、この例は控え目なデザインのなかに上品で知的、かつヒューマンな印象さえ与えており、たいへん優れたものであると言ってよい。
前述のように、こうしたビジネスレターヘッドは単独で作成するのでなく、見積書や請求書などのフォームシート、社内メモランダム用紙、ファクス用紙、大小の封筒、および名刺などを含めたビシネス・ステーショナリー全体を同じデザインで統一するのが普通である。Figure
24 (pp. 46-47) にあげた例は、そうしたトータルデザインの事例である。
なお、日本では個人のレターヘッドを持つ習慣はあまりないが、英国や米国ではCI
(corporate identity) と同じレベルで、PI (personal identity) ということをいい、そのひとつの表現として自分専用のビジネス/パーソナル・ステーショナリーを持つことが盛んに行われている。米国あたりでは、街角の小さな文房具屋さんなどでも気の効いたレターヘッドを比較的安く作成してくれるところがたくさんある。日本でも最近はこうしたサービスを行うところが出てきた。
Figure 23: レターヘッドデザインの例 *
(省略)
Figure 24: CIシステム導入によるビジネス・ステーショナリーのトータルデザイン事例
2.4.4 レターヘッドの管理とリスクマネジメント
前述のとおり、社名入りの便箋を使って対外的に発行された文書は、いかなる場合でも原則として正式文書とみなされる。したがって、その使用および管理には十分な注意を払う必要がある。
1987年6月に、ある大手電子機器メーカのT社を巻き込んだ詐欺事件があった。この事件は、T社の元社員が会社のレターヘッドを使って不正に発注・詐取した総額1億3千万にのぼる半導体を、ひそかに東南アジアに安売りしていたというものである。詐欺にあった半導体メーカーでは「この商談が正式の手続を踏まず、幹部でない元社員が行うなど不審な点もあった」にもかかわらず、注文がT社の社用箋を使って行われたため、その「ブランド名を信用して取引に応じた」とし、一方、T社側もこの事件は元社員による個人的犯行としながらも、注文が自社の社名入りレターヘッドを使って行われたことから「会社側の責任も免れえない」として、損害額の半額相当、およそ6千万円を示談金として支払った、というのである(読売新聞昭和62年6月29日朝刊)。
T社にしてみれば、たった数枚のレターヘッドが6千万円もの損害を出したということになるが、この事件の教訓は、仮にだれかが一流企業の名をかたって詐欺を働こうとすれば、社名入りのレターヘッドはその絶好の小道具になるということにある。[9]
[9] この事件は決して例外的なものではなく、実はごく頻繁に発生している。1991年には某一流商社を舞台に、被害総額68億にも達するという大規模な詐欺事件があった。これは、「実際の取り引きがなくても、1枚の注文書から巨額の資金が動くシステムを巧妙に突いた犯行」で、事の発端は「A社の○○部長代理らが、A社の正規の注文書を勝手に持ち出して、実在しない工事などを装って
B社に発注」して代金をだましとり、これが雪だるま式にふくれていったものである
(読売新聞 1991年7月22日)。この翌年、1992年6月には某百貨店を舞台にした同様の詐欺事件が明るみに出ている。報道によれば、「(逮捕された)
A百貨店商事本部の担当部長らは、同百貨店の正規の注文書などを使用し、その信用力によって商社やノンバンクなどを架空取り引きに巻き込んでいた」もので、被害総額は440億円という途方もない金額にのぼっている
(朝日新聞 1992年6月3日)。
現在、日本の企業で、こうした可能性をも考慮に入れたリスクマネジメントをしているところがどのくらいあるだろうか。すでに述べたように、ほとんどの日本企業ではレターヘッドは単なる事務消耗品に過ぎず、まるで鉛筆や消しゴムと同じように無造作に扱われている。レターヘッドのメディア価値については、現在、少しずつ認識され出してはいるが、その誤用・乱用に伴うリスクについては信じられないほど無頓着である。
レターヘッドは、いわば金額欄未記入の手形用紙となんら変わるところはないのである。どの企業でも手形用紙に対する無制限なアクセスを許していないように、対外文書に使う正式なレターヘッドについても、同じような厳格さでその管理を徹底すべきである。このためには、正式なレターヘッドと社内で日常的に使う事務用箋を区別し、後者にはたとえば
interoffice memorandum とか for in-house (in-company) use only のような注記を印刷しておき、正式な対外文書として発行できないようにしておく。一方、対外文書に使う正式なレターヘッドは各セクション責任者の管理下におき、無制限なアクセスができなくするのである。もちろん、それぞれのセクションから発行される対外文書は、すべてその責任者の氏名で発行することになる。これを最も徹底したものが、次の例に見られるように各セクションの文書発行責任名を、あらかじめレターヘッドに印刷しておく方法である。米国ではこの方式をとっている企業が少なくない。もちろん、これとて、いわゆるフォアサイン(代理署名)を加えて出すこともできるのであって、けっきょくはレターヘッド自体の管理が重要になってくることに変わりはない。
Figure 25: 文書発行責任者氏名やセクション名をあらかじめ印刷したレターヘッドの例
(省略)
2.5 ビジネス通信用封筒の標準規格
前述のとおり、ビジネス文書はA4 (米国ではレターサイズ) の用紙を使って作成するのが普通である。したがって、これを送付するための封筒は、それぞれの横幅(A4で210
mm、レターサイズで 216 mm)をやや超えた大きさを持っている必要がある。この基準を満たす封筒のうち、次図に示すような規格の洋形封筒(洋形4号
JIS S5502)が、ビジネス用として最も適している。
Figure 26: ビジネス通信用封筒の標準規格 * (A4/レターサイズ兼用形)
(省略)
2.5.1 封筒上の宛名表記
日本の住所のローマ字表記については、郵政省が次のような表記法を推奨している(『ぽすたるガイド』昭和61年版)。ただし、これはあくまでもひとつの例として挙げられているものであって、かならずしもこのとおりに表記しなければならないというわけではない。
この表記法は米国の標準方式にならったものであるが、3-4行目の書き方が日米ではやや異なっている。米国式の住所表記は通常次のようにする。
英国やカナダの宛名表記法も基本的には米国式に同じであるが、市
(city) を大文字で表記すること、郵便番号 (postcode/postal code) を独立した行とすること、あるいは郵便番号を最終行に書くことなどが推奨されている。カナダおよび英国で一般に見られる宛名表記例は次のとおり。
なお、英国およびカナダでのpostcode は M4T 2T1 のようにローマ字と数字の組み合わせによるふたつのユニットから構成されている。これを、M4T2T1
や W1N9UZ のように続けて書かないように注意。また、postcodeにはアンダーラインを加えない。封筒上の宛名表記例(私信)のは以下のとおり。なお、郵送注記
(mailing notation) は消印で隠されてしまわないように注意。
Figure 27: 封筒の宛名表記例(米国式私信)
ビジネス通信に使う封筒には、通常、社名およびアドレスなどがあらかじめ印刷されている。したがって、こうした社用封筒には受信者の氏名と会社のアドレスのみを記入することになる。この場合の宛名表記法も、基本的には私信の場合に同じであるが
、ビジネス通信では、次のように受信者の氏名のほかに、役職名、所属部署、社名などが加わる(書中宛名の書き方については
pp. 83-85参照)。
この例では、宛名が個人宛となっているが、企業・団体宛の場合は上記3行目から書き始めることになる。なお、宛先を会社または団体とし、これに特定の個人宛ての「特定宛名」を加えることもあるが、この場合の書式例については
Figure 66 (p. 103) 参照のこと。
Figure 28: 封筒の宛名表記例(ビジネス通信)
2.5.2 郵送注記その他の注意事項
文書の性質によっては封筒および手紙の適当な位置に CONFIDENTIAL,
PERSONAL, REGISTERED MAIL, EXPRESS MAIL などと表記することがある。このような注記のうち、郵送に関するものを
mailing notation と呼び、相手方に到着した後の取り扱い指示をon-arrival notationと呼んで区別する。このような注記はレターおよび封筒の双方に書き入れるが、封筒上の記入位置は一般に
Figure 28 に例示したとおりである。なお、郵送注記の例とそのレター上での表記法については
Figure 52 (p. 82), Figure 53 (p. 83) 参照のこと。
2.6 レターの外観とレイアウト
レターの外観は一般に考えられている以上に重要な役割を果たしている。人間がその第一印象で判断されてしまうことがしばしばあるように、ビジネスレターもまた、その外観が「内容」についての第一印象を決定する。レター作成者は、自分の書くレターの内容だけでなく、それをどのように紙面上に割り付け、タイプするかについても大いに関心を持つべきである。
レターの外観を構成する要素のうち最も重要なものは紙面上に盛られるべき文字情報の割り付け(レイアウト)である。通常、これはタイピストの裁量に任されている。ほとんどのタイピストはそれなりの訓練と経験を積んでおり、個々のレターの長短に応じた適切な割り付けをしてもらえるものと期待してよい。しかし、たとえば海外の工事現場事務所に赴任した場合などは、自分の部署にかならずしも一流のタイピストが配置されるとは限らない。そのようなケースでは、採用すべきレターフォーム、各要素の配置とスペーシング、上下左右のマージンのとりかた、レター全体の割り付けなどについて、タイピストに適切な指示を与えておく必要がある。
このうち、ビジネスレターのレイアウトについては次図に示すとおりである。この例では、セミブロックフォームで書かれたビジネスレターの標準的レイアウトを示しているが、基本的なレイアウトに関してはその他のレターフォームでもほぼ同じである。
Figure 29の例1) は本文およそ10-15行(90-150語)程度の短いレターをダブルスペースで全体にバランスよく配置したものである。左右マージンもやや広めにとっている。例2)
ではほぼ同じ長さのレターをシングルスペースでタイプし、各要素間のスペースを大きくとって全体にバランスよく配置している。いずれも、紙面上の視覚的焦点は実際の中心点(対角線の交差位置)よりやや上部の文書主題のあたりに置かれている。
Figure 29: ビジネスレターのレイアウト例1
(図省略)
例 3) は 本文およそ20-30行(180-300語)程度の比較的長いレターを本文行間をシングルスペースにして1枚におさめたものである。A4サイズのレター用紙では、シングルスペースの場合、レターヘッド部分を除いてもおよそ40行程度(セミダブルスペースでは、およそ30行)タイプすることができる。しかし、サイン欄のスペースを考慮した場合、30-35行が1ページの許容限度となる(セミダブルスペースではおよそ20-25行)。本文の長さがこれ以上になる場合は、2ページに分けることになる。
例 4) は1ページにはおさめ切れない本文を2ページにわたって配置したものである。この場合、2ページ目には本文とサイン欄を含めて、少なくとも用紙上部
1/3程度を埋めるようにする。したがって、本文の長さに応じて シングルあるいはセミダブルスペースを使い分けることになる。なお、ページが複数にわたる場合、最終ページが結尾敬辞やサイン欄だけになることは避けなければならない。最終ページには少なくとも2行以上の本文を配置する(Figure
128 および 129 参照)。
2.7 ビジネスレターのフォーマット
現在、国内外で発行されている英文ビジネスレターにはさまざまな形式のものがあるが、一般にはインデントフォーム
(indented form) およびブロックフォーム (block form) と呼ばれるふたつの標準形式のいずれかに準拠している。いずれも、それぞれ以下の一覧表に示したようなバリエーションがある。このふたつの標準形式のほかには、主としてお祝い状やお悔やみ状などのような儀礼的・社交的な書状に使われるオフィシャルフォーム
(official form) と呼ばれる書式がある。
また、最近では米国の The Administrative Management Society
(AMS) が提唱しているシンプリファイドフォーム (simplified form) と呼ばれる書式もよく見かけるようになってきた。このフォーマットは従来のビジネスレターの儀礼的な要素を排除したものであるが、これをもっと定型化したものがオフィシャル・メモランダムフォーム
(official memorandum form) ということになる。全般的な傾向として、ビジネスレターの形式も次第に簡素化の方向に向かってきている。
Figure 30: ビジネスレターのフォーマット区分一覧表
[14]
[14] この一覧表は、1970 年代後半以降の米国における最も新しい慣用にしたがって、それぞれのレター形式を体系的に分類・定義したものである。したがって、従来の
British Orthodox Style を基準とした定義とは一部異なっている。
2.7.1 インデントフォーム
インデントフォーム には、セミインデントフォーム、フルインデントフォーム、および
逆インデントフォームの3つのバリエーションがある。これらの書式の特徴は、indented
という名の示すとおり、本文の行頭を数文字分内側に引き込めることにある。セミインデントフォームでは各パラグラフの第1行目にindention(字下げ)を加える。逆インデントフォームではこの反対に各パラグラフの2行目以下を数文字分内側に引き込める。字下げの字数は人によって2-10文字とかなり幅があるが、およそ5-6文字を平均とする。ただし、仮に最初に6文字の字下げを加えたとすれば、それ以降の字下げもすべて6文字で統一する。なお、「字下げ」は各パラグラフの始まりを明らかにするためのものであるが、これは手書きでビジネスレターを書いていた時代の名残りである。
a) セミインデントフォーム(Figure 34,
p. 62)
この書式はしばらく前まではほとんどの企業が採用していたほどポピュラーな書式であったが、現在では後述のセミブロックフォームやフルブロックフォームにその主役の座を奪われつつある。この書式での「字下げ」
はレター本文にのみ適用され、書中宛名や冒頭敬辞の各行はそれぞれ左端マージンにそろえ、結尾敬辞や署名欄はレター下部中央付近の任意に設定された位置から、これも行頭を垂直にそろえる形で書く。このように、この書式ではすべての行に字下げを加えるわけではないので、これをセミインデントフォームと呼ぶのである。なお、この書式では字下げによって各パラグラフの区切れが明示されており、したがって各パラグラフの間はシングルスペースでよい。ただし、Figure
34 の例のように本文が少ない場合には、パラグラフ間をダブルスペースにして全体のバランスをとる。なお、この書式を
modified block form と呼ぶこともある。
b) フルインデントフォーム(Figure 35.
p. 63)
この書式は、いわゆる British orthodox style として、かつては英国系企業を中心にかなり広範囲に使われていた。しかし、現在はこの書式は一般に時代遅れと考えられており、通常のビジネスレターの書式としてはほとんど使われなくなった。この書式の特徴は、各パラグラフ冒頭の字下げに加え、書中宛名、結尾敬辞、署名欄の各行にすべて字下げを加えることにある。この書式は、その左端から右端にかけての流れるようなスタイルから、ステップフォーム
(step form) と呼ばれることもある。
c) 逆インデントフォーム(Figure 36,
p. 64)
この書式はやや特殊なスタイルで、セミインデントフォームとは対照的に、各パラグラフの2行目以下を数文字分内側に引き込めるのを特徴とする。通常のビジネス文書ではほとんど使われることはないが、セールスレターや各種のダイレクトメールなどではときおりこの書式を使ったものを見かけることがある。これは、人目を引く効果を狙ってのことである。
2.7.2 ブロックフォーム
ブロックフォームには、セミブロック、フルブロック、およびシンプリファイドフォームの3つのバリエーションがある。これらの書式の特徴は、本文の各パラグラフに字下げを加えず、レターの各構成要素をひとつのブロックのようにして配置することにある。インデントフォームにくらべ、字下げの手間がかからない分だけタイピングの効率がよくなっている。
Figure 31: インデントフォーム (Indented forms) によるレターのイメージ
(図省略)
d) セミブロックフォーム(Figure 37,
p. 65)
この書式は、前述のセミインデントフォームから各パラグラフの字下げを取り去り、本文各行の始めを左端マージンに垂直にそろえたものである。この書式では各パラグラフの始めに字下げがないため、パラグラフの区切れをダブルスペースによって明示する必要がある。なお、この書式は
(full) block form の変形という意味で、modified block form と呼ばれることがある。
e) フルブロックフォーム(Figure 38,
p. 66)
この書式は比較的最近になって用いられるようになってきたもので、日付行以下、すべての要素を左端マージンに垂直にそろえるのを特徴とする。タイピングの効率は最もよく、全体にスッキリした近代的な印象を与える。このため、最近では特に米国系企業を中心にこの書式が盛んに用いられている。前述のように、この書式を使う場合はレターヘッドに印刷する社名ロゴ・所在地などのデータおよびシンボルマークを用紙上部中央位置に配置する伝統的なセンタリング方式のデザインよりも、左あるいは右マージナルラインにそろえて配置するブロック方式をとることが多い。なお、この書式は極端なブロックフォームという意味で
extreme block formと呼ばれることもある。
f) シンプリファイドフォーム(Figure 39,
p. 67)
この書式はビジネスレターから従来の儀礼的な要素を排除し、できるだけ簡素化したもので、米国の
The Administrative Management Society (AMS) が提唱しているスタイルである。形式的にはフルブロックフォームに準じているが、次のような特徴がある。
- 冒頭敬辞(opening salutation)を省略する
- 結尾敬辞(complimentary close)を省略する
- 文書主題行(subject line)はすべて大文字でタイプし、アンダーラインは加えない
- 文書主題行に Subject: や Re: などの見出しを使用しない
- 署名欄(signature block)はすべて大文字でタイプし、各要素は原則としてハイフンでつなげ、1行におさめる。
- 本文ではできるだけ「箇条書き」を活用する。
なお、通常の米国式表記法では日付を May 10, 19-- のように書くが、この書式では
10 May 19-- のように表記することがある。このスタイルはカンマを省略できること、および数字の読み違えを防ぐために有効であるという理由で米国防総省などでも採用されているものである
。[15]
[15] 日付の書き方については pp. 79-81 参照。
Figure 32: ブロックフォームによるレターのイメージ
(図省略)
2.7.3 その他の書式
通常のビジネスレターでは上記のインデントフォームまたはブロックフォームのいずれかに準拠した書式が使われているが、このほかにオフィシャルフォーム、およびオフィシャルメモランダムフォームと呼ばれる書式がある。Figure
30 の一覧表にはもうひとつ、フリースタイルレター (free style letters) という分類も加えてあるが、これはその名のとおり自由に各レター要素を配置したもので、一定の書式を指すわけではない。
g) オフィシャルフォーム (Figure 40,
p. 68)
この書式は、主として「お祝い状」や「招待状」、あるいは「お悔み状」などのような、儀礼的・社交的な手紙に使われる。ただし、儀礼的・社交的な手紙であっても、特にオフィシャルフォームにこだわる必要はない。形式的にはインデントフォームまたはセミブロックフォームに準じたものであるが、この書式では宛名が手紙の冒頭ではなく、署名欄の下方左端に配置されることが最大の特徴である。また、オフィシャルフォームを使った儀礼的・社交的なレターは、いわゆる業務通信とは性格を異にするものであって、特にその必要がない限り文書番号や通信責任者イニシャルなどの事務的要素は省略し、役職名も書かないのが普通である。
h) オフィシャル・メモランダムフォーム(Figure
41, p. 69)
いわゆるメモランダムは主として自社内の通信用に日常的に使われる「メモ用紙」のことを指し、通常のビジネスレターにつきものの形式的・儀礼的な要素を排除し、最も機能的に簡素化したものである。このテキストではこのような「社内メモ用紙」をinteroffice
memorandum と定義し、これをさらに対外的なビジネス文書の書式としてフォーム化したものを「オフィシャル・メモランダムフォーム
(official memorandum form)」と呼ぶ。この書式は特にファクスレターでよく使われているもので、通常の社内メモ用紙と同じように、発信日付、発信者名、受信者名、通信主題などの各項目のヘッダーがあらかじめ所定の用紙に印刷されているのが特徴である。
i) フリースタイルレター(Figure 42,
p. 70)
このグループに入るレターは本文を含めた各レター要素を自由に配置したもので、一定の書式があるわけではない。Figure
42 に挙げた例では本文各行をセンタリングし、中心的なメッセージを大文字でタイプしている。このほかにも、たとえば本文をすべて右寄せにしたものや、本文をレター用紙中央で改行しすべて左半分に配置したもの、あるいは文中にイラストを入れたりデザイン文字を多用したものなど、さまざまな工夫を凝らしたものがある。このタイプのレターは前出の逆インデントフォーム
(hanging indented form) と同じように人目を引く効果を狙ったもので、主として商品売り込みのためのダイレクトメールなどのような文書に使用されている。特に米国系企業からのダイレクトメールではレターヘッドデザインや用紙、封筒にも工夫を凝らしたものが多い。ただし、中にはあまり品がよいとはいえないものもある。通常のビジネス文書、あまり変わったフォーマットは使わないほうがよい。
Figure 33: その他の書式によるレターのイメージ
(図省略)
2.8 ビジネスレターの句読点法
ビジネスレターの句読点法にはclosed punctuation, open punctuation
および mixed punctuation の3つがある。
closed punctuation はおもにフルインデントフォーム (Figure
31: 1-b) で使われるもので、日付、文書番号、書中宛名、その他すべての項目の行末にカンマないしピリオドを加えるスタイルである。用例は
Figure 35 (p. 63) に示すとおりであるが、このスタイルは、現在はほとんど使われていない。
これに対して、open punctuation は日付、文書番号、書中宛名、冒頭敬辞、結尾敬辞、署名欄その他の各行末句読点をすべて省略するスタイルであり、おもに
シンプリファイドフォーム (Figure 32: 2-c) で使われる。Figure 38 および
Figure 39 (pp. 66-67) の例に見られるとおり、このスタイルではMr. や Div.
(= Division) などの略語のピリオドも省略されることが多い。ただし、本文中の行末ピリオドおよびカンマは省略しない。
mixed punctuation は最も一般的な句読点法で、Figure 34 (p.
62) や Figure 37 (p. 65) に見られるとおり、日付、文書番号、書中宛名、署名欄などの行末句読点はすべて省略し、冒頭敬辞と結尾敬辞の行末にのみ句読点を加えるスタイルである。本文中の句読点、および略語ピリオドの扱いについては通常の用法に従う。
Figure 34: セミインデントフォームによる文例 *
(Return)
Figure 35: フルインデントフォームによる文例 *
(Return)
Figure 36: 逆インデントフォームによる文例 *
(Return)
Figure 37: セミブロックフォームによる文例 *
(Return)
Figure 38: フルブロックフォームによる文例 *
(Return)
Figure 39: シンプリファイドフォームによる文例 *
(Return)
Figure 40: オフィシャルフォームによる文例
(Return)
Figure 41: オフィシャル・メモランダムフォームによる文例(ファクスレター)*
(Return)
Figure 42: 中央配置型のフリースタイルレターの例
(Return)
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